<第17話>昭和の大横綱との思い出(下) 2015/7/6

大鵬の優勝インタビューを一番数多くやったのは私ですが、いつも寡黙で多くを語りませんでした。真っ先に口にするのは「おかげさまで」。
言えるようでなかなか言えないことばなんですよ。大鵬を象徴することばでした。
ところが、辞めてからの大鵬は話好きでね。話し出したら止まらないんです。そういう人でした。

平成20年4月、横審けいこ総見前に白鵬と話をする元大鵬

一番嫌ったことばは「天才」。天分に恵まれていたということですが、そのことばを聞くと「人の何倍も努力、稽古したんだ。だから今の自分があるんだ」とムキになりましたね。
大鵬は「忍」の一字で努力を重ねました。サインを求められたら「忍」「努力」とよく書いていました。

昭和36年11月場所前のニ所ノ関部屋稽古

安定感抜群で、一度相手を受けておいてから勝ちに出るので、実況もしやすい横綱でした。瞬時に勝負がつくことがあまりないのです。
「立ち上がりました、当たった。土俵中央、左を差した、右上手をとれません。しかし、大鵬は我慢、我慢しています」となります。
立ち上がって勝負がつくまでの、起承転結がきちんとできるのです。
「一呼吸、二呼吸。大鵬、左四つ、いま右上手をとりました」となれば、99%勝ったと思ってくださいという気持ちで実況していました。

アナウンサー冥利に尽きる盛り上がりが表現できたという意味では、大鵬に感謝しなければなりません。

 柏戸以外で、大鵬のライバルと言えたのは横綱佐田の山(元出羽の海理事長)、大関豊山(元時津風理事長)ですね。
「たら」「れば」は勝負の世界で禁句になっていますが、大鵬がもし、あの時期にいなければ、佐田の山はもっと楽に横綱になり、もっと数多く優勝していたでしょう。豊山は100%横綱になっていたと思います。
この2人は完全に大鵬の大きな壁に立ちはだかれました。
佐田の山は大鵬との対戦成績が5勝27敗でしたが、激しい突き押しの積極相撲で横綱まで上り詰めたのは見事です。大変な根性と努力の人です。

昭和40年11月場所千秋楽、佐田の山が大鵬に勝つ

豊山は抱え込んでの四つ相撲でした。大鵬とはお互いに背も高く懐が深いので、土俵際まで押し込んでも、独特のやわらかい下半身で残されてしまう。残されて差されたら、大鵬に勝つのは至難の業です。期待された素材でしたが、綱という壁は打ち破れませんでした。
大鵬がいかに強かったかを物語っています。

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プロフィール

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日本福祉大客員教授、元NHKアナウンサー・相撲ジャーナリスト

1930年、北九州市生まれ。早大卒業後、53年NHK入局。初任地は名古屋局で、自身初の大相撲実況は54年2月に金山体育館で行われた大相撲名古屋場所(当時は準本場所)。

NHK在職中は名古屋、福岡、大阪、東京と大相撲の本場所開催地の放送局に在籍。81年、大関貴ノ花引退の放送で思わず絶句。“泣きの杉山、泣かせの杉山”と異名をとる。相撲以外でも東京、メキシコ五輪をはじめプロ野球など各種のスポーツ実況を担当。

現在は日本福祉大生涯学習センター名誉センター長、客員教授。名古屋・栄の中日文化センター講座「大相撲の魅力を語る」で講師を務める。深い知識と豊富な経験を基に、講座で興味津々の話題を紹介してくれる。

著書に「大相撲この名勝負」「土俵の鬼三代」「兄弟横綱−若貴の心・技・体」「土俵のチンギス・ハーン 白鵬」「土俵の真実」などがある。

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