<第19話>名古屋場所をふりかえって 2015/7/30

今年の名古屋場所は、話題豊富な近年にない、いい場所でしたね。15日間の満員御礼に応える内容だったのがおおいに評価されてしかるべきだと思います。

その中で白鵬が35回目の優勝をしたのは当然といえば、当然ですが、終始危なげなく賜杯を手にしたことは「さすが」です。白鵬はまさに「円熟の境地」に入ったと思う15日間でした。

滑り出しに数番長い相撲もありましたが、あれは相手の力を確かめながら、どのくらい強くなったのか、「おまえの持っている力を出し尽くしてみろ」と言わんばかりの貫禄を感じた序盤でした。これを「衰えた」などと言った人もいたようですが、全く失礼な言葉と思います。白鵬は衰えるどころか、完璧な相撲をとった場所だったと言っていいでしょう。
特に終盤、すべて自ら踏み込んで、自分のかたちを作り、そのまま勝負を決めたあたりに彼の自信を改めて感じました。優勝した後の館内に満面の笑顔で手を上げた姿は、まさに「心のゆとり」です。そこまで彼は新しい境地に入ったんだと思いました。

35度目の優勝を決め、引退を決めたモンゴルの大先輩旭天鵬とパレードする白鵬

逸ノ城戦に完勝した直後、のどを押したことが「ダメ押し」と受け止められ、批判されたことは残念でしたが、私は「しっかりしろ!」と、逸材であるはずの後輩にゲキを飛ばした姿だと見ました。逸ノ城は発奮して数倍稽古に励み、恩返しをすべきです。あと10キロ以上身体を絞るぐらいの猛稽古をして、横綱のせっかくの思いに応えるぐらいであってほしい。

新大関照ノ富士が慌てず、どっしりした相撲を見せて、彼にとって大関は通過点だということを改めて感じた場所だったと思います。ただ、12勝はしてほしかった。名古屋のファンも来年は、彼の土俵入りを見られると確信したのではないでしょうか。他の3大関と力の差すら感じさせる場所でした。今後は慢心することなく稽古を重ねていけば、綱も遠からず掌中にできるはずです。

2場所休場明けの鶴竜が横綱としての責任を十分果たしたのには敬意を表します。地味なタイプですが、基本に忠実でお手本のような相撲を見せて、千秋楽まで優勝の望みを抱かせたことは大いに賞賛したいと思います。

関脇栃煌山がようやく「らしさ」を発揮して、両横綱を破り、波乱の立役者になったのはうれしいことでした。ただ、終盤に負けてはいけない相手に星を落としたのは残念で仕方がありません。大関を目指して明るい見通しが立ったのは日本人としても喜ばしいことではないでしょうか。

白鵬、鶴竜の両横綱を破り、一時優勝争いに加わった栃煌山

豪栄道が結果的に水を差すような存在であったのも皮肉なことですが、名古屋場所を盛り上げた、個性派の面目躍如というべきでしょう。

遠藤は2桁勝たなければおかしいと場所前に予想しましたが、彼自身ほっとした笑顔が見られました。ただ、10勝よりさらにもう2番くらい勝ってほしかったというのが私の気持ちです。ひざもだいぶよくなったようで9月場所は再度2桁勝利を期待します。15日間毎日、平幕で懸賞が最多だったことでもわかるように、遠藤人気がますます高まるでしょう。

新十両の御嶽海は地元長野が近いこともあって、バスを連ねた応援団の期待に十分応えたことは立派で、明るい展望が開けてくるに違いありません。10日目に常幸龍の張り手を受け、左ほおの内を15針も縫って言葉も出せない状況にもかかわらず優勝したことは、精神面がいかにしっかりしているかの証です。

関取デビューとなったご当地場所で十両優勝を飾った御嶽海

いいことずくめの盛り上がった場所でしたが、残念なこともありました。世代交代は世の常ですが、旭天鵬と若の里が土俵を去る場所になったのは寂しい限りです。
特に旭天鵬はモンゴル勢のパイオニアのひとりであり、優勝まで記録した稀有な存在でした。幕内出場1470回という第1位の記録を誇りとして土俵を去りました。40歳を超えてなお真摯に土俵を務めた姿に心からねぎらいと拍手を送ります。外国出身力士で日本国籍を取得し、親方としての道を歩む彼に大きな期待を寄せます。できれば大島親方(元大関旭国)の部屋を再興してほしいと思います。

小兵で個性派として注目された宇良(序二段、関西学院大出身)ですが、7勝したのは立派です。決定戦で敗れ、優勝は逃しましたが、決定戦は番外としての位置づけであり、デビュー以来、序ノ口、序二段を全勝で通過したことは見事というほかありません。来場所は三段目上位でも十分期待できます。

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プロフィール

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日本福祉大客員教授、元NHKアナウンサー・相撲ジャーナリスト

1930年、北九州市生まれ。早大卒業後、53年NHK入局。初任地は名古屋局で、自身初の大相撲実況は54年2月に金山体育館で行われた大相撲名古屋場所(当時は準本場所)。

NHK在職中は名古屋、福岡、大阪、東京と大相撲の本場所開催地の放送局に在籍。81年、大関貴ノ花引退の放送で思わず絶句。“泣きの杉山、泣かせの杉山”と異名をとる。相撲以外でも東京、メキシコ五輪をはじめプロ野球など各種のスポーツ実況を担当。

現在は日本福祉大生涯学習センター名誉センター長、客員教授。名古屋・栄の中日文化センター講座「大相撲の魅力を語る」で講師を務める。深い知識と豊富な経験を基に、講座で興味津々の話題を紹介してくれる。

著書に「大相撲この名勝負」「土俵の鬼三代」「兄弟横綱−若貴の心・技・体」「土俵のチンギス・ハーン 白鵬」「土俵の真実」などがある。

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