日本人が育てた「台湾紅茶的故郷」 2015/9/2

かつてここで働いた日本人は、遠くの形のよい小さな山を富士山に見立て、故郷を懐かしんだといいます。

烏龍茶のイメージの強い台湾でも、実は紅茶が作られています。台湾お茶の旅、3回目は、台湾紅茶に関するお話です。

これまでの記事はこちら!
☆1回目・・・「この“虫”に会いに台湾へ!お茶が蜜の香りを醸す秘密 」
☆2回目・・・「「凍頂烏龍茶」の産地へ!大切に育て、手間暇かけて・・・ 」

魚池の茶業改良場内にある石碑

台湾でも紅茶が作られているということをご存知ない方が多いかもしれません。しかも、その歴史には、実は日本人が非常に深くかかわっていたという事実は、知る人ぞ知る逸話といったところでしょうか。まさに今回訪問した場所は、日本人が育てた「台湾紅茶的故郷」でした。

訪ねたのは、南投縣魚池(ぎょち)郷にある『行政院 農業委員会 茶業改良場 魚池分場』です。この行政施設の役割は、お茶の育種、研究を行い、地元の茶農家さん達へ無償で情報提供し、茶業の発展につなげるというもの。実際、新しいお茶の木の品種を作り出し、農家さんたちへの指導を行って、台湾茶の品質向上に成功しているとのことでした。

特に、この改良場で開発された紅茶用品種『台茶18号』。これから作られる『紅玉紅茶』は、ルビー色の水色、程よいボディで飲みやすい味、なんと言っても特徴的な、鼻に抜けていくメントール香が魅力で、一気に台湾紅茶の評価を高め、台湾を代表する紅茶として定着しています。

さて、この茶業改良場。風光明媚な観光地として名高い日月譚という湖を見下ろす、標高およそ850mのところに建っています。見渡すと斜面にお茶の木が植わっているのが見え、この場内を含む一帯が紅茶の産地であることがよく分かります。

茶業文化展示館に展示されている新井耕吉郎の銅像と写真。「台湾紅茶的守護者」と紹介されています。

日本統治時代の1936年(昭和11年)に設立され、幾度か名称を変えながら今に続くこの茶業改良場。ここを作った人物こそが、“新井耕吉郎”という日本人なのです。

当時の履歴書には、その時々のお給料まで記録されています。

改良場の資料館(茶業文化展示館)に展示されている耕吉郎の「履歴書」によりますと、新井耕吉郎は、明治37年、今の群馬県沼田市に生まれています。大正14年、北海道帝国大学(現 北海道大学)農学部を卒業、志願兵として軍隊に所属、除隊ののち、大正15年に台湾へ渡り、台湾総督府中央研究所平鎮茶業試験支所に助手として勤務。

その後、昭和11年に、魚池紅茶試験支所(現 茶業改良場 魚池分場)を開設します。そしてここで紅茶の栽培、研究を開始するのです。

樹齢およそ80年と伝えられるお茶の木。この改良場の歴史をもっとも長く見つめてきた存在ともいえそうです。

耕吉郎の大きな功績への第一歩である紅茶試験支所の開設は、台湾赴任後、現地の茶畑の調査・研究を進める中で、今改良場がある標高およそ850mの山の斜面が紅茶の産地になることを確信したことから始まります。

これ以前にすでに持ち込まれていたアッサム種のお茶の木がよりよく育つ環境条件として、魚池がとてもよく合っていると踏んだのです。その目に狂いはなく、途中産業的には衰退した時期もあったといいますが、未だにこの地が台湾紅茶の中心であり続けていることで、その正しさが証明されていると言えます。

改良場へ向かう途中の道沿いに建つ記念碑。訪問者の多くがここで手を合わせていきます。

戦争が終結したあと多くの日本人が台湾を後にすることになりますが、耕吉郎は妻と子どもだけを日本に帰し、自身は台湾に残って茶業研究を続けました。しかしその翌年、志半ばにしてマラリアにかかり、この世を去ってしまいます。42歳という若さでした。

敗戦後も台湾に残り、茶業のために貢献する道を選んだ耕吉郎は、今でも現地の人々の尊敬を集めており、記念碑に手を合わせる人は後を絶ちませんし、改良場の職員の方々も、親しみを込めて「アライサン」と呼んでおられます。

台湾紅茶をどこかでお飲みになる機会がありましたら、新井さんの台湾での偉業に、どうか思いを馳せてみてください。台湾紅茶の親しみある味わいには、きっとアライサンの人柄に通じる何かがあるに違いありません。

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プロフィール

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・紅茶専門店・銀の芽 代表
・紅茶教室『ティーアトリエ Silver Tips』主宰
・金沢中日文化センター紅茶教室講師
・ティータイムオーガナイザー
・フリーアナウンサー

愛知県犬山市出身。石川県金沢市在住。

信越放送(TBS系列)勤務時代に紅茶に関する資格を取得したことで、紅茶が農作物であることを再認識。

それぞれの産地・季節によって旬の時期があり特徴的な味わいを持つことに感銘を受け、この道へ。

ネットショップでは、紅茶本来のナチュラルな風味を大切にした新鮮な茶葉やオリジナルブレンドの販売を。

教室では、それらをベースにしたアレンジティーや、ティータイムのしつらえなど、日々の暮らしに紅茶を取り入れるアイデアと工夫を披露している。

夫と小学生二人の4人暮らし。

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