リニア・鉄道館に行こう(29)クハ111形:近郊形電車の決定版 2015/9/9

静岡県内の東海道本線を走る113系

戦後、国鉄は「電車」による幹線系の整備を進めました。諸外国が機関車牽引の客車列車で近代化を推し進めるなか、国鉄のとった方針は異例ともいえるものでした。

電車方式は、客車にモーターを積むことにより自力で走るようにしたものです。長編成になると、複数のモーター付客車を連結することになるため、「動力分散式」と呼びます。これに対して、機関車牽引列車は動力が機関車だけですので、「動力集中式」と呼びます。

動力分散式の電車で最初に成功したのは、近郊形直流電車80系でした。続いて70系が登場します。それらの技術をもとにして、特急「こだま」用151系電車が登場、さらに交流の0系新幹線電車へと技術が磨かれていきました。

いまや世界の高速鉄道のほとんどが動力分散式を採用するようになりましたが、それもここ20年ほどのことで、それまでは日本が世界の主流に反して独自技術として確立してきたものでした。

その一連の技術開発の過程で、1962(昭和37)年に近郊形直流電車の決定版である111系ができました。この111系を母体に、翌1963(昭和38)年にモーターの出力を100KWから120KWにパワーアップした113系が登場します。走行系の電気機器をパワーアップしたので、先頭車などモーターがついていない車両は111系と同じ形式となりました。ですから、111系も113系も先頭車はクハ111形です。

この113系は国鉄近郊形直流電車の決定版となり、国鉄末期までに約3000両も量産されました。また、山岳用の115系も1964(昭和39)年に登場しましたので、国鉄の直流電化区間にいけば、たいてい111,113系か115系を見かける状態となりました。

リニア・鉄道館に保存されているクハ111 1

その輝かしい経歴をもつ国鉄近郊形直流電車111系のファーストナンバー「クハ111-1」が、リニア・鉄道館に保存されています。

「湘南色」と呼ばれるみかんの葉の緑と、みかんの実のオレンジ色を組み合わせた塗装が111,113系のオリジナル色で、リニア・鉄道館でももちろんこの色です。行き先表示が「東京」となっているのも、111系として登場した当時から、東海道本線の東京口の運用を担っていたためです。

特徴は側扉が3カ所にある点です。それまでの近郊形車両は、長距離車両とともに2扉車だったのですが、それでは増え続ける旅客数に対応できないため、片側3扉としたのです。それも、各扉が両開きとなっています。

この仕様は、1960(昭和35)年に登場した近郊形交直両用電車401系で登場したもので、その使い勝手の良さから111,113系にも採用されたのでした。いまでは当たり前となった近郊形電車での3扉両開きですが、その仕様は401系で登場し、111,113系で広まったといえましょう。

国鉄がJRになった後も、当たり前のように走っていた113系ですが、JR東海はすでに全廃し、JR東日本、JR西日本、JR四国に一部車両が残っているという状況です。

ロングシートとクロスシートを組み合わせた車内

リニア・鉄道館のクハ111-1は、車内も見ることができます。その車内をみると、前述の両開き扉の付近が広くなっています。これは、扉の両脇にロングシートを配置し、扉間に4人向かい合わせのクロスシート(ボックスシート)を配したレイアウトの成果です。

このロングシートとクロスシートを組み合わせた「セミクロスシート」は、いまや近郊形電車では当たり前に見られますが、これも国鉄では70系電車で登場し、401系でブラッシュアップしたうえで、続く111,113系でも採用されて定着したものでした。

その扉横のロングシートの肘掛けからは、立ち客がつかまるためのスタンションポールがでていて、肘掛けはその補強材であるとともに、通路部と着席者の仕切にもなっています。つり革の取付方法も含めて、登場後半世紀以上が経った今日でもよく考えられたデザインだと感心します。

客室窓は、ロングシート部が扉の戸袋となっているため開きませんが、クロスシート部は下段上昇の2枚窓となっています。各座席には灰皿があり、天井には扇風機がついている点も、昭和の電車を感じさせられます。

リニア・鉄道館のクハ111-1では、昭和30年代に考案されたこれら車内外のレイアウトに注目して下さいね。

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(有)鉄道フォーラム 代表取締役

1958年愛知県犬山市生まれ。大学卒業後に10年のサラリーマン生活を経て、当時話題だったパソコン通信NIFTY-Serveで鉄道フォーラムの運営をするために脱サラ。1998年に(有)鉄道フォーラムを設立。2007年にニフティ(株)がフォーラムサービスから撤退した際に、独自サーバを立ち上げて鉄道フォーラムのサービスを継続中。

一方、鉄道写真の撮影や執筆なども行い、「日本の“珍々”踏切」(2005.2 東邦出版刊)、「鉄道名所の事典」(2012.12 東京堂出版刊)、「トワイライトエクスプレス」食堂車ダイナープレヤデスの輝き−栄光の軌跡と最終列車の記録−(2015.9 創元社刊)など著書多数。

当「達人に訊け!」をまとめた書「東海鉄人散歩」(2018.7)が、中日新聞社から刊行された。

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