グリーンケミストリーって?(5)製造法改良への挑戦2 2015/11/20

今回も前回に続き、製造法改良への挑戦についてお話します。

「グリーンケミストリーの12か条」の第7条

“原料は枯渇性資源ではなく再生可能な資源から得る”

という条文があります。

「枯渇性資源」というのは、簡単に言えば一度採取すると尽きて無くなる資源のことで、具体的には「石油」のようなものです。これらは長い時間かかって作り出された物質で、もし無くなって(枯渇して)しまったら、そう簡単には作ることができません。

これに対し、「再生可能資源」とは、例えば「砂糖」のように、栽培された植物等から繰り返し容易に得ることができるものを示します。

ご存じのように、我々の身の回りの製品はそのほとんどが石油から作られています。石油を原料に、色々な反応を行って別の化合物へと変換し、我々の生活に必要な製品を生産しています。

例えば、アジピン酸という化合物、これはナイロン6,6等の原料で、年間300万トン以上生産されています。その代表的な製造法として、硝酸酸化と呼ばれる反応が用いられています。

硝酸は強い酸ですが、同時に強力な酸化能力も持っています。ですから、以下の式のように、シクロヘキサノンやシクロヘキサノールといった原料も容易に酸化されて、アジピン酸を生成します。硝酸は安価な試剤であり、またこの製造法は簡単なのですが、問題点が2点あります。

1つ目は、原料であるシクロヘキサノンやシクロヘキサノール。これらは石油由来です。2つ目は、反応式の一番右側に記されている亜酸化窒素、別名「笑気ガス」という気体。京都議定書でも排出規制されている強力な温室効果ガスです。このガスが大量に副生するのは好ましくありません。

これに対し、再生可能資源を原料に用いるアジピン酸合成法が1994年に提案されました。米国のJ. W. Frost教授が発表した以下の合成法です。

この方法は遺伝子組換えした特殊な大腸菌を用いる方法で、原料は「グルコース」。そう、サトウキビなどから簡単にとれるあの「砂糖」です。通常の大腸菌は、砂糖を食べて、自分たちが生きていく上で必要なアミノ酸等を体内で合成しています。

ところが、この特殊な大腸菌は、グルコースからアミノ酸を生合成するルートを途中で遮断されており、アジピン酸合成に必要な「cis, cis -ムコン酸」という物質を菌の体内にためるように操作されています。

従いまして、この大腸菌に砂糖を与えて培養した後、体内にたまった「cis, cis -ムコン酸」を抽出します。アジピン酸は、「cis, cis -ムコン酸」から化学的な手法を用いて1工程で合成することができます。原料の砂糖からは2工程ですが、何と言っても原料に「石油」を使わないところが大きな特長です。

伊藤彰近 博士(薬学) 岐阜薬科大学合成薬品製造学研究室教授

岐阜薬科大学卒業、京都大学大学院薬学研究科博士課程2年修了後、母校に戻って来ました。助手、講師を経て2008年より岐阜薬科大学教授。

こてこての有機化学を研究すると共に、学生に教えています。現在、創薬化学大講座・合成薬品製造学研究室を主宰し、総勢27名のスタッフ&学生を率いて「環境に優しい化学=グリーンケミストリー」を幅広い観点から研究しています。詳細につきましては、是非当研究室のHPをご覧下さい。

本ブログは「あなたの健康に役立つ話」というタイトルですが、ここでは個々人はもとより、人類全体の健康的な生活に大きな影響を与えるであろう「化学技術」に関して、できるだけ分かりやすく皆様にお伝えしようと思っております。「化学式、化学反応式を見ると頭痛がする」と言われる方も多い(ほとんど全員?)と思いますが、今暫くお付き合いの程を。

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