グリーンケミストリーって?(6)製造法改良への挑戦3 2015/11/30

これまでは反応に使用する試剤の面からの改良法についてお話ししてきましたが、最後に反応装置の面からのグリーンケミストリーへの取り組みについてお話しさせて頂きます。

皆さん、化学実験に使う反応(ガラス)容器って、どのようなイメージをお持ちですか?実験室には様々な形のガラス器具が所狭しと並んでいますが、一般に反応そのものに用いられるのが、丸い形をしたフラスコ(コルベン)。

図1

特に、ナス型フラスコ(ナスフラあるいはナスコルとも呼びます)というガラス容器(図1)がよく用いられています。最近はドラマなどでも化学実験室のシーンが時々出てきますので、ひょっとしたら、ご存じの方がおられるかも。

このフラスコ、丈夫さ、撹拌のしやすさ、反応生成物の取り出しやすさ等から考案されたわけですが、この形はずーっと以前からほとんど変わっていません。

これまでのブログでも紹介しましたが、化学反応自体はものすごい勢いで改良され進化してきているのに、反応容器に関してはそれほど大きな動きがありません。

勿論、このナスコルが様々な反応に適用可能な優秀なガラス器具であることは間違いないのですが、他に可能性は無いのでしょうか?

実は、その答えの一つとして、フローマイクロリアクターと呼ばれる反応装置があります。名前の通り非常に小さな反応容器で、様々な種類のリアクター(反応装置)が考案されています。

図2

例えば、図2はミキサーと呼ばれる装置。反応試剤を非常に効率よく混ぜ合わせることで反応を促進させるものです。

図3

また、図3はガラス製のリアクター。どちらの装置にも内部に反応溶液が通るマイクロオーダーの非常に細い流路が作ってあります。特に図3の装置では、よく見て頂くと折りたたまれた細い流路が確認できるかと思います。

この細い流路空間が、フラスコ内の空間に相当します。通常のフラスコのように、反応溶液を大きな塊(バルク)として反応させるのではなく、非常に細い流路を流すことで少量ずつ効率的に反応させようというものです。

この装置の最も得意とするのが、反応物に熱を加えたり、逆に冷却したりすること。従来の大型プラントでは、反応溶液への加熱や反応溶液の冷却は、時間とエネルギーがすごくかかりました。

それに対し、マイクロリアクターは加熱や冷却に時間がかからないため、反応時間を大幅に短縮することができます。つまり、省エネルギーが実現できるわけです(グリーンケミストリーの12ヶ条、第6条)

また、このリアクターを幾つか並べて稼働(ナンバリングアップと言います)させれば、トン単位の生産も可能です。装置自体が非常に小さいので、テーブルサイズのプラント構築も夢ではありません。装置全体(プラント)が小さければ、場所も選ばず、管理に携わる人も少なくて済み、さらに安全面でも従来のプラントに比べて大きなアドバンテージがあります。

フローマイクロリアクターにご興味がおありの方は、専門の研究会がありますので、そちらのHPもご参照下さい。

このフローマイクロリアクター、欧州の製薬メーカーなどでは既に実用化されていますが、日本ではまだまだです。何故普及しないのでしょうか?その理由として、企業レベルでは現有のインフラとの兼ね合い。現有装置で生産できる化合物であれば、わざわざ新たな投資をして装置を換装する必要はないということです。

また、大学研究室レベルでは価格の問題。以前に比べ安価になってきましたが、まだ一般のフラスコの何十倍もしますので、なかなか研究の裾野が広がっていかないのが現実です。

中国では、このマイクロリアクター関連の研究に国家をあげて取り組み、噂に寄れば莫大な研究費が投入されるとか。日本でもそのような大きな動きがあると良いのですが。

伊藤彰近 博士(薬学) 岐阜薬科大学合成薬品製造学研究室教授

岐阜薬科大学卒業、京都大学大学院薬学研究科博士課程2年修了後、母校に戻って来ました。助手、講師を経て2008年より岐阜薬科大学教授。

こてこての有機化学を研究すると共に、学生に教えています。現在、創薬化学大講座・合成薬品製造学研究室を主宰し、総勢27名のスタッフ&学生を率いて「環境に優しい化学=グリーンケミストリー」を幅広い観点から研究しています。詳細につきましては、是非当研究室のHPをご覧下さい。

本ブログは「あなたの健康に役立つ話」というタイトルですが、ここでは個々人はもとより、人類全体の健康的な生活に大きな影響を与えるであろう「化学技術」に関して、できるだけ分かりやすく皆様にお伝えしようと思っております。「化学式、化学反応式を見ると頭痛がする」と言われる方も多い(ほとんど全員?)と思いますが、今暫くお付き合いの程を。

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