<第42話>心に残る大関列伝(魁傑編) 2016/4/20

魁傑は日大柔道部出身で、大相撲とは縁がなかったのですが、投げ技と足技が柔道家としてよりも、大相撲に向くのではないかと花籠親方に熱心に口説かれ、本名西森として昭和41年秋場所、序ノ口から相撲界のスタートを切りました。

輪島は同年齢、同部屋ですが、魁傑が相撲界では先輩です。下積み時代は無理な投げ技にこだわるところがあり、関取に昇進するまで4年以上の歳月を要したのですが、次第に相撲の型を身につけ、じわじわと番付を上げました。

昭和45年初場所、新十両では4勝11敗と大きく負け越し、幕下に陥落しましたが、3場所後、十両に返り咲いてからは順調に出世していきました。

昭和47年春場所、前頭7枚目で横綱大関陣をはじめ、幕内上位を次々と破り、12勝3敗の成績で殊勲賞と敢闘賞を獲得しましたが、長谷川に同点優勝され、初の賜杯は逃しました。

同時期に輪島、貴ノ花が大関を目指したときであり、魁傑も当然、大関が期待される存在でした。身長188センチ、体重128キロで体型的に足がやや長く、寂しい下半身のため、安定した成績を挙げるのに苦心しました。

昭和49年九州場所で北の湖との決定戦の末、初優勝を飾った

武器となったのは内掛けや外掛け、右上手投げです。相手を嫌がらせ、冴えわたった昭和49年九州場所、北の湖との決定戦を制して、小結でついに初優勝を飾りました。

昭和50年春場所で待望の大関を射止めましたが、その後はケガや故障に悩まされました。昭和51年初場所に大関から陥落し、平幕まで落ちるという不本意な時期が続きました。

しかし、妥協を許さない真っ正直な相撲が実を結び、昭和51年秋場所、14勝1敗で平幕優勝。関脇に上がると、2桁以上の安定した白星を挙げ、大関陥落から1年半を経て、昭和52年春場所、再度大関に返り咲いたのです。

まさにあきらめず、一途に土俵に徹した努力の証であり、2度の大関カムバックが異例のこととして相撲史に残っています。

同部屋の輪島、強さが印象深い北の湖、人気の貴ノ花の陰に隠れ、極めて地味な存在として終始したのですが、きまじめで真摯(しんし)な土俵姿が忘れられません。

特に記憶に残っている魁傑の名言があります。ケガ故障のため大関から陥落したころ、途中休場などを勧める声もありましたが、「力士は土俵あってこその命。休場は試合放棄と同じ」と答えたのです。この言葉から彼の人物像がすべて伝わってきます。

他にも全力で闘い続けた彼の姿勢を物語る取組があります。前頭4枚目だった昭和53年春場所7日目。大関旭国との大熱戦です。

最初が4分26秒の大相撲。水が入って3分25秒、さらに決着がつかなかったための取り直しになって2分33秒。合わせて10分24秒の相撲史に残る死闘を演じました。

最後は魁傑がすくい投げで勝ちました。私はテレビの正面実況を務めていましたが、打ち出しが18時25分に達し、今でもNHKの相撲放送延長の新記録です。

平成23年名古屋場所を前に中日新聞社を訪れた日本相撲協会の放駒理事長

引退後は放駒親方として横綱大乃国らを育てましたが、不祥事が相次ぐ時期に相撲協会理事長に推されて、心ならずも八百長問題など厳しい局面での対応に当たらざるをえませんでした。

平成23年春場所を中止する決断、夏場所は非公開の技量審査場所とするなど、一番つらい時期、彼のような極めてクリーンで誠実な人物がいたからこそ、今日の相撲人気復活があることを忘れてはいけません。

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プロフィール

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日本福祉大客員教授、元NHKアナウンサー・相撲ジャーナリスト

1930年、北九州市生まれ。早大卒業後、53年NHK入局。初任地は名古屋局で、自身初の大相撲実況は54年2月に金山体育館で行われた大相撲名古屋場所(当時は準本場所)。

NHK在職中は名古屋、福岡、大阪、東京と大相撲の本場所開催地の放送局に在籍。81年、大関貴ノ花引退の放送で思わず絶句。“泣きの杉山、泣かせの杉山”と異名をとる。相撲以外でも東京、メキシコ五輪をはじめプロ野球など各種のスポーツ実況を担当。

現在は日本福祉大生涯学習センター名誉センター長、客員教授。名古屋・栄の中日文化センター講座「大相撲の魅力を語る」で講師を務める。深い知識と豊富な経験を基に、講座で興味津々の話題を紹介してくれる。

著書に「大相撲この名勝負」「土俵の鬼三代」「兄弟横綱−若貴の心・技・体」「土俵のチンギス・ハーン 白鵬」「土俵の真実」などがある。

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