びっくりする薬の話B 同じ薬が2つの病気に効く 使う量は1,000倍以上の差 2016/8/30

メトトレキサートという薬があります。メトトレキサートは、全く異なる2つの病気、関節リウマチとガンの治療に用いられます。メトトレキサートをリウマチ治療に使う場合の使用量は1週間に6mg程度、骨肉腫というガン治療に使う場合の使用量は1週間に10,000mg程度(例:体重50kgの患者の場合、使用量には幅がある)であり、病気によって使う量が1,000倍以上も異なります。

メトトレキサートは、リウマチ治療での使用量がとても少ないので、リウマチ治療では副作用が少ないと思われるかもしれませんが、リウマチ治療でも感染症、肺障害、血液障害などの重い副作用が生じて生命に危険が及ぶ場合があります。

その副作用を避けるために、リウマチ治療では、1つに2mgが含まれるカプセルを、朝に1カプセル(2mg)、夕に1カプセル、翌朝に1カプセル飲んだら、5日間は薬を飲まず、次の週から同じように2日間、計3カプセル(6mg)服用することを繰り返します。飲み方を間違えると副作用が出やすくなります。メトトレキサートを毎日朝、夕に飲み続けてしまい、死に至った悲しい医療事故も報告されています。

同じ薬でも、病気によって使う量が違う (画像はイメージ)

こんなに怖い薬をガン治療ではリウマチ治療の1,000倍以上も使用して大丈夫なのでしょうか。ここが医療のすごいところです。メトトレキサートをガン治療に使う場合は、10,000mgの全量を6時間ほどかけて点滴注射します。大量の抗ガン剤を一度に体に入れることでガン細胞を集中的に攻撃します。

この際に正常な細胞も抗ガン剤のダメージを受けます。但し、ガン細胞は正常な細胞よりも活発に活動しているために、血液がガン細胞に大量に送り込まれ、抗ガン剤も血液とともにガン細胞に大量に運ばれてガン細胞をより多く攻撃するのです。

でも、このままにしておくと正常な細胞もやがて抗ガン剤に攻撃されて大きなダメージを受けてしまいます。そこでメトトレキサート投与の3時間後からメトトレキサートの攻撃を弱めるロイコボリンという薬を注射してメトトレキサートが効かないようにします。

更に、大量の水分を点滴して、尿と一緒にメトトレキサートを体外に除去します。こうすることで、抗ガン作用を最大にして、副作用はできるだけ防止しているのです。

このように、使う量によって作用が異なる薬があります。例えば、アスピリンという薬は血液を固まりにくくする作用と、熱を下げたり痛みを抑える作用(解熱鎮痛作用)があります。解熱鎮痛作用の方が、10倍程度多くのアスピリンを使います。

血液を固まりにくくする作用は心筋梗塞や脳梗塞などの予防に使いますが、その作用を高めるために指示された量よりも大量のアスピリンを服用すると、逆に血液を固まりにくくする作用は弱まってしまうことがあります。これをアスピリンジレンマといいます。薬の量はとても重要なのです。

杉山 正 博士(薬学) 岐阜薬科大学実践社会薬学研究室教授

岐阜薬科大学薬学部卒業。1982年から25年間、岐阜大学医学部附属病院薬剤部へ勤務した後に、2007年4月に現職である岐阜薬科大学実践社会薬学研究室の教授に着任しました。2015年1月からは京都府立医科大学在宅チーム医療推進学講座の特任教授を併任しています。

研究室には、多くの病院薬剤師、薬局薬剤師が大学院博士課程の学生あるいは研究生として在籍しており、医療現場で直面している課題を解決するための研究を行っています。最近は、在宅医療を推進するための研究ならびに地域薬剤師の生涯研修にも取り組んでいます。

本ブログでは、びっくりするお薬の話を紹介したいと思います。

PR情報

記事一覧

美と健康は表裏一体

前回は、肌の老化に関して紫外線や乾燥の影響をお話ししましたが、実は、肌の老化には全身の健康状態や全身の老化も関わっています。 前回記事「見かけ年齢に大…

2019/11/30

見かけ年齢に大きなインパクトをもつ肌の老化

7月20日公開の第2回目のコラムで、見かけ年齢を左右する要因として、「シワ、シミが目立たない」、「肌ツヤが良い」、「タルミが目立たない」という肌の老化…

2019/11/20

健康情報や美容情報の氾濫に飲み込まれないようにするには

現在、シミ(肝斑に限る)用の医薬品、化粧品的なシミ・シワ・肌荒れには薬用化粧品(医薬部外品)、健康や肌状態を訴求した特定保健用食品、そして、有効性を…

2019/11/10

新しい糖尿病治療薬:経口GLP-1作動薬

第1回記事:新しい糖尿病治療薬 第2回記事:新しい糖尿病治療薬:グリフロジン製剤 筆者が薬学生だった頃、「タンパク質のような高分子は消化管から吸収され…

2019/10/30

食品の安全性を考えるB 〜食品添加物は悪者なのか?〜

今回も前回、前々回に引き続き、食品の安全性についてのお話です。今回は食品添加物について考えてみたいと思います。 前回記事『食品の安全性を考えるA 〜食…

2019/10/23

新しい糖尿病治療薬:グリフロジン製剤

第一回記事:新しい糖尿病治療薬 糖尿病と言うぐらいですから、尿に糖が排泄される病気であることは容易に想像がつくでしょう。実際、糖尿病では尿糖が陽性と…

2019/10/20

新しい糖尿病治療薬

読者の皆さんの中にも、成人病検診などで「耐糖能が悪化していますね」と言われたご経験のある方も居るのでは? かく言う筆者も、年々ヘモグロビンA1c(どの程…

2019/10/10

食品の安全性を考えるA 〜食品中に存在するリスクって何?〜

今回も前回に引き続き、食品の安全性についてのお話です。今回は食品中に存在するリスクについて考えてみたいと思います。 前回記事『食品の安全性を考える@ …

2019/10/4

食品の安全性を考える@ 〜天然由来成分は本当に安全なのか?〜

食物を食べるということは、我々人間が毎日行うごく当たり前の行為であり、また生きていく上で必要不可欠なものです。それ故に、食品は安全なものでなければな…

2019/9/10

クスリにまつわるお金のはなし 〜製薬会社のお弁当〜

日本の国民医療費は、最近では年間42兆円、一人当たり33万円を超えています。これらの費用のほとんどは、私たちが毎月収めている健康保険料や税金、患者自己負…

2019/8/30

プロフィール

19

達人に質問をする

本学は、美しい金華山と長良川などの自然に恵まれ、また歴史と文化の薫漂う岐阜市の北部に位置し、80有余年に及ぶ歴史の中で、建学の精神である「強く、正しく、明朗に」をモットーに、「人と環境に優しいグリーン・ファーマシー」を基本理念とした薬学教育を通じ、安心で安全な医療に貢献できる薬剤師や、人と環境にやさしい方法で薬を創ることのできる研究者や技術者を養成しています。

地域に生き、世界に伸びる大学として、今までの実績を基にさらに発展し続ける努力を重ねております。

関連リンク

ピックアップ

  • 中日ボイス『新型肺炎感染拡大で、何をあきらめた?』
  • 会員登録
  • ログイン
今日の天気(05:00発表)
名古屋
晴れ後曇り
15 ℃/--
東京
晴れ時々曇り
13 ℃/--
大阪
晴れ
15 ℃/--
  • 東名で渋滞情報あり。
  • 登録路線が未設定です。

企画特集(PR)

  • 公式 Twitter はこちら
  • 公式 Facebook はこちら
クラウドファンディング 夢チューブ 中日新聞
東京新聞 電子版
中日新聞の人材研修 ビジネストレーニング「ビズトレ」
中日販売サポート
東海テレビ 庄野アナと 新聞を音読してみよう!
中日防災ナビ
こどもウイークリーのこーなー
過去の企画・特集