第18回 第3党の候補者〜リベラルなジル・スタイン、マリファナ支持者のゲイリー・ジョンソン〜 2016/10/1

今回の大統領選では、二大政党の候補者の不支持率があまりにも高いため“第3党”の候補がいつになく注目を集めています。20党以上ある第3党の中で、最も多く話題になっているのは緑の党のジル・スタインと、リバータリアン党のゲイリー・ジョンソンです。

スタインは、1950年生まれ、ハーヴァード医学部を優秀な成績で卒業したユダヤ系の医師で、医学的な立場から環境保護を訴えています。

金持ちと大企業に重税を課して富を再分配、連邦政府が仕切る国民皆保険制度、公立大学の学費を無料に、化石燃料廃止、徹底的環境保護、反イスラエル・親パレスチナの外交政策、不法移民に恩赦を与える、可能な限り多くの難民を受け入れる、などの非常にリベラルな公約を掲げています。

彼女が目指している政策は、銃規制の徹底強化以外はバーニー・サンダースとほぼ同じです(サンダースはハンティングがさかんなヴァーモント選出上院議員なので、銃所持権を支持していました)。そのため、サンダースが民主党大会で正式にヒラリー支持を表明した後、彼の支持者の数割がJill Not Hill!「ヒル(ヒラリーを省略した言い方)じゃなくてジル!」を合い言葉にスタインに鞍替えしました。

黒人に人気のあるコーネル・ウェスト教授(2000年までハーヴァード大学教授、それ以降プリンストン教授の黒人の学者)が積極的にスタインを支持していること、スタインも副大統領候補のアジャム・バラカ(黒人)もシカゴ生まれであることも手伝い、イリノイ州でヒラリーから黒人票を奪うだろう、と言われています。

また、カナダの油田からアメリカの精油所に原油を輸送するパイプラインの建設に関して、ヒラリーが国務長官時代に曖昧な態度を取っていた(注)ことに怒りを感じている環境保護派の人々も、このパイプラインに断固として反対しているスタインを支持しています。

政府の規模を最小限に止めることを目指すリバータリアン党のゲイリー・ジョンソンは、1953年生まれ。元ニュー・メキシコ知事(当時は共和党でした)で、ニュー・メキシコ大学在学中にプロセス配管や空調設備などを製造する会社を設立し、3800万ドルもの収益を得る企業に育て上げた辣腕ビジネスマンでもあります。

銃所持権支持、オバマケアー撤廃、政府の出費を最小限に止め均衡予算を達成し、成功者(金持ち、大企業)を罰することのないフェアーな税制を目指す、などの政策は共和党とほぼ同じです。

そのため、あまりにも型破りなトランプをどうしても支持できない共和党派の人々が「棄権するか、ジョンソンに投票する」と言っています。

しかし、不法移民に2年の執行猶予期間を与えその間に善行・善意を証明できた人々には労働ヴィザを与える、という不法移民対策は民主党に近く、議員の任期を制限、環境保護は推奨するが政府が一定企業に奨励金を出すことには反対、というポリシーはいかにもリバータリアン党ならではです。

ジョンソンは、インタビューの度に「マリファナはアルコールよりもはるかに安全。マリファナを合法化すれはより良い社会を築ける」と発言していています。

元マサチューセッツ州知事(1990〜1997年、当時は共和党)の副大統領候補、ウィリアム・ウェルドは、ドラッグ使用者のエイズ感染防止のために衛生的な注射針を政府が支給することを支持したことで知られています。

そのおかげで、ジョンソンとウェルドはマリファナ・ドラッグ支持者の若い世代から人気があり「ヒラリーから若者票を奪っている」と言われています。

9月15日に発表されたCBSニュースとニューヨーク・タイムズ紙の支持率調査では、ヒラリーとトランプのみに絞ったケースではヒラリー:46%、トランプ:44%、4人に増やした場合はヒラリー:42%、トランプ:42%、ジョンソン:8%、スタイン:4%で、第3党の候補はトランプからよりもヒラリーから多くの票を奪っています。

スキャンダルまみれのヒラリーのことがどうしても好きになれない民主党派の人々、トランプが共和党の候補になったことをいまだに受け入れられない共和党派の人々にとって、スタインとジョンソンは“避難先”を提供してくれる大切なセカンド・チョイスと言えそうですよね。

注:パイプライン建設は雇用創出に役立つので民主党支持基盤の労働組合から支持されているため、ヒラリーを筆頭に民主党の政治家の多くは煮え切らない態度を取っています。ヒラリーは出馬後、建設反対の立場を表明したものの、パイプラインの話題はひたすら触れないようにしています。

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プロフィール

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ジャーナリスト

エジプト、カイロ大学で比較心理学を専攻。イスラム教徒。1989年から1994年までNHK教育テレビ『英会話』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系CNNモーニングのキャスターを務め、1994年、ヨーロッパに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、アメリカのレッド・ステイツ(共和党が強い非都会型の州)の実態を様々な媒体でリポート。

著書:
『レッド・ステイツの真実−アメリカの知られざる実像に迫る−』(研究社)
『オバマ失言で学ぶアメリカ』(ベストセラーズ)
『警告!絶対にマネをしてはいけない「ブッシュ君」英語集−正しい英語例つき』(マガジンハウス)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっとわかる』(講談社)

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