第19回 決め手は「政策」か「イメージ」か。当落を揺るがすディベートの効果 2016/10/15

アメリカでは、小学生が学級委員を選ぶ選挙でも大統領選でも、ディベートが大きな役割を果たしています。近年の大統領選では、大統領候補のディベートは3回、副大統領候補のディベートは1回、合計4回のディベートが行われ、4大ネットワークでライブ中継されています。

今年の大統領選では、9月26日に行われた大統領候補の1回目のディベートが8400万人もの視聴者を釘付けにし、メディア評論家も政治アナリストも口々に「トランプがどれほど欠点の多い候補であろうが、media magnet(人を引きつける人物、メディアで注目される人材)であることは間違いない」と言っていました。

最初のディベートでは内容面ではヒラリーが圧勝し、ディベート直後の支持率調査ではヒラリーがトランプに6%の差をつけました。

その後、11年前にトランプが女性蔑視発言をしたことがリークされ、ヒラリーとトランプの支持率の差が10%に広がりましたが、2度目のディベートでトランプがヒラリーの偽善を次々と指摘したため、2候補の支持率の差は再び6%に戻りました。

しかし、この間、トランプの支持率は一貫して41%と変わらなかったので、ヒラリーは第3党の支持者と浮動票の支持を取り付けたことになります。

このように、ディベートは浮動票の行方を決める上で大切な役割を果たすのですが、実は近年の大統領選ではディベートの内容よりもディベートでの候補者の立ち居振る舞いや表情が、勝敗を決めるカギとなることが多いのです。

1960年に米大統領選で初めてテレビ討論会(ディベート)が行われた。民主党のジョン・F・ケネディ元大統領(左)と、共和党のリチャード・ニクソン元大統領(右)

例えば、1960年のケネディVSニクソンのディベートは、ラジオで聞いた人たちはニクソンが勝ったと確信したのですが、テレビで見た人たちは苦虫を噛み潰したような表情のニクソンよりも若々しいケネディに好感を抱き、ケネディが勝った、と思いました。

1996年のテレビ討論会。共和党のボブ・ドール元上院議員(左)と、民主党のビル・クリントン元大統領(右)

1996年の大統領選は、当時50才だったビル・クリントンと、73才のボブ・ドールの間で争われました。ドールは、出馬宣言をして以来ずっと“最年長の大統領候補”ということが話題になっていたのですが、ディベート会場で初めてクリントンと並んで画面に映し出された時、壮齢のクリントンと高齢のドールの年の差が誰の目にもハッキリと見えて、ドールは過去の遺物の象徴となってしまいました。

受け答えの内容では互角だったのですが、ヴィジュアル面でクリントンが勝っていたため、多くの人がクリントンが勝ったと思い、選挙でもクリントンが勝ちました。

2000年の選挙戦を戦った、民主党のアル・ゴア元副大統領(左)と、共和党のジョージ・w・ブッシュ元大統領(右)

2000年の最初のディベートでは、政治・外交・経済、あらゆる面で当時副大統領だったアル・ゴアが圧倒的な知識を誇り、内容面ではゴアの独り舞台と言っても過言ではないほどでした。

しかし、ブッシュが何度か的外れな受け答えをしたときに、ゴアが深いため息をついたり、目玉を上に向けて呆れかえった表情を見せたり、イラついて何度も首を横に振り、これが多くの人々に“失礼な態度”と受け止められ、高慢なゴアより好感度が高い、ということで多くの人々がブッシュが勝ったと思い、実際そのようになりました。

2004年、当時の現職大統領ジョージ・w・ブッシュと大統領の座を争った民主党のジョン・ケリー国務長官

2004年のケリーVSブッシュのディベートは、3回とも内容面ではケリーが勝っていましたが、やはりブッシュのほうが好感度が高かったため、浮動票が大きく動くことはなく、選挙ではブッシュが再選されました。

アメリカの政治評論家の多くは、「アメリカ人は“一緒にビールを飲みたいと思う候補”を大統領に選び、ディベートでは候補のパーソナリティの差が浮き彫りになるので、ディベートはやはり重要だ」と言っています。

一方、ほとんどの政治学者は、ヴァージニア大学政治学教授のラリー・サバト氏を筆頭に「ディベートが選挙結果に直接影響を与えることはない」と断言しています。

しかし、難しい質問にどう対処するか、相手をどう攻撃するか、相手の攻撃をどうかわすか、など、候補者の気性や人格、対人関係のスキル、人間としての器が判断できる、という意味で、ディベートはやはり大統領選において重要なプロセスの一つ、と言えそうですよね。

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プロフィール

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ジャーナリスト

エジプト、カイロ大学で比較心理学を専攻。イスラム教徒。1989年から1994年までNHK教育テレビ『英会話』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系CNNモーニングのキャスターを務め、1994年、ヨーロッパに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、アメリカのレッド・ステイツ(共和党が強い非都会型の州)の実態を様々な媒体でリポート。

著書:
『レッド・ステイツの真実−アメリカの知られざる実像に迫る−』(研究社)
『オバマ失言で学ぶアメリカ』(ベストセラーズ)
『警告!絶対にマネをしてはいけない「ブッシュ君」英語集−正しい英語例つき』(マガジンハウス)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっとわかる』(講談社)

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