第20回 アメリカのメディアは公正か? 報道されない舞台裏と選挙への影響 2016/11/1

9月下旬以来、アメリカのマスコミはトランプの過去のセクハラ問題ばかりを連日連夜報道していますが、ネット上ではウィキリークスと情報公開法で明らかにされたヒラリー関連のEメールが話題になっています。

ショッキングな舞台裏の会話が続々と露呈されているのですが、中でも特に衝撃度が高いものをいくつかご紹介しましょう。

バラク・オバマ 第44代アメリカ合衆国大統領

*オバマは、去年の3月に「ヒラリーが私設のサーバーを使い個人のアカウントで国務に関するEメールのやりとりをしていたことを知らなかった」と言っていましたが、実はヒラリーが国務長官だった間(2009〜2012年)、自分も偽名を使ってヒラリーの個人アカウントにメールを送ってやりとりをしていて、ホワイトハウスもEメール・スキャンダルからヒラリーを守ろうとしていました。

*環境保護派のサンダース支持者たちの票が必要なヒラリーは公の場では原油輸送のためのパイプライン建設に反対していますが、キャンペーン・スタッフは労組の幹部に「それは表の顔で、実際にはヒラリーはパイプライン建設に反対してはいません」というメールを送っていました。

*2010年のハイチ地震の復興事業入札に際して、国務省はクリントン夫妻の友達やクリントン財団への巨額寄贈者の会社を優先していました。ハイチはそれまで50年にわたって金鉱の採鉱権を外国の鉱業会社に与えたことはなかったのですが、復興事業の一環としてアメリカのVCS鉱業に採鉱権を与え、その後ヒラリーの弟がこの会社の重役に就任しました。

民主党の大統領候補 ヒラリー・クリントン

*ヒラリーの弁護士は、選挙キャンペーンと連絡を取りあってはいけないスーパーPAC(無制限に献金を収集できる政治行動委員会)と、選挙法の抜け穴をくぐって連絡を取り合う方法をスタッフに教えるメールを送っていました。

メールには、こう記されていました。
Permissible: “Donor A works in financial services and has been a long-time contributor. I think she’d be willing to do six figures for Priorities.”
許容範囲内:「金融サービス業界のAさんは長期にわたって献金をしてくれています。プライオリティズ(ヒラリー支持のスーパーPAC、プライオリティズUSA)に6桁の額の献金をしてくれると思います」
Not recommended: “I want you to call Donor A and ask for $250,000.”
薦められない:「献金者のAさんに電話して25万ドル献金してほしい、と頼んでください」

*ヒラリーは演説やディベートではTPP環太平洋戦略的経済連携協定に反対し、身元調査を通過した難民のみを受け入れる、と言っていますが、銀行家たちの前で行ったスピーチでは「自由貿易、国境のない世界が私の夢です」と言っていました。

これらは文字通り氷山の一角ですが、どれもヒラリーに大きなダメージを与える情報で、本来なら大きく報道されて然るべき内容なのにほとんどニュースになっていないのは、アメリカのジャーナリストの9割以上がヒラリーに献金をし、ヒラリーを応援しているからなのです。

元ホワイトハウス高官でヒラリー・クリントンの選挙スタッフ ジョン・ポデスタ

リークされたメールによると、ポデスタが自宅に大手メディアのアンカーやリポーターを招待してパーティを行い、ジャーナリストたちも頻繁にヒラリーのスタッフたちと連絡を取り合って、積極的にヒラリーに有利な報道をしていたことが明らかになっています。

特に、予備選の真っ最中にCNNのコメンテイター、ドナ・ブラジル(当時は民主党活動員、現民主党全国委員会会長)が「CNN主催の討論会で死刑に関する質問が出てくる」と、ヒラリーの選挙事務所に通知していたメールは、サンダース支持者にとっては大きなショックでした。

また、1月に行われたMSNBCの電話インタビューが、ヒラリーのスタッフが用意した原稿に従って進行し、質問もヒラリーの答えも一字一句原稿通りだったことも、サンダース支持者を激怒させました。

ハーヴァード大学の心理学教授、ロバート・エプスタインは、8月までグーグルの検索のオートコンプリートでヒラリーに不利な検索が出てこないようになっていたことを証明していますし、Facebookもトレンドのランクにトランプに有利なサイトが入ってこないように操作していたことが問題になり、8月下旬にランクを決める作業は人間ではなくコンピュータにまかせることにしました。

さらに、権力の濫用や汚職を調査する組織、センター・フォー・パブリック・インテグリティーは、リポーター、アンカー、記者の政治献金の96%がヒラリーに行き、ジャーナリストの多くが記事やリポートの中でヒラリー支持者であることを露呈していることを指摘しています。

公正を欠いたアメリカのメディアの嘆かわしい現状を見る度に、ジャーナリストが中立を保っている日本の報道界がうらやましいと思えてしまいます。

大統領選投票日はアメリカの11月8日。日本では、早ければ11月9日(水)の午後にはおおよその結果が判明しているかも知れません。

次回は、ついに最終回!  選挙結果の分析をお届けしますので、お楽しみに!

◆◆◆ウィキリークス、情報公開法で公開された元のメールや、マスコミの左傾バイアスを指摘する調査は下記のリンクをごらんになってください。

○ヒラリーが私設サーバーと個人のメールアドレスを使っていたとオバマが知っていたことを証明するメール

○パイプラインに関する裏の立場を説明するメール

○情報公開法で公開されたハイチ地震入札不正操作に関するメールを紹介しているABCニュースのサイト

○スーパーPACとのコーディネートの仕方を教える添付ファイル

○国境無き世界が夢、と言っているメール

○メディアの癒着を証明するメールの一部
https://wikileaks.org/podesta-emails/emailid/12063
https://www.wikileaks.org/podesta-emails/emailid/4836
https://wikileaks.org/podesta-emails/emailid/11150
https://wikileaks.org/podesta-emails/emailid/4213
https://wikileaks.org/podesta-emails/emailid/467
https://wikileaks.org/podesta-emails/emailid/13686
https://wikileaks.org/podesta-emails/emailid/750
https://wikileaks.org/podesta-emails/emailid/4303
https://wikileaks.org/podesta-emails/emailid/5298


○ドナ・ブラジルのメール

○MSNBC用のスクリプト

○グーグルの不正を指摘するエプスタイン教授のリサーチ

○マスコミ関係者の寄付額

◆◆◆

PR情報

記事一覧

第21回 トランプの大逆転〜オバマ政権に取り残された人々のリヴェンジ投票〜

選挙日の数日前まで、アメリカの政治アナリストのほとんどがヒラリーの圧勝を予測していたのですが、ふたを開けてみたら、なんとトランプがかなりの差をつけて…

2016/11/11

第20回 アメリカのメディアは公正か? 報道されない舞台裏と選挙への影響

9月下旬以来、アメリカのマスコミはトランプの過去のセクハラ問題ばかりを連日連夜報道していますが、ネット上ではウィキリークスと情報公開法で明らかにされた…

2016/11/1

第19回 決め手は「政策」か「イメージ」か。当落を揺るがすディベートの効果

アメリカでは、小学生が学級委員を選ぶ選挙でも大統領選でも、ディベートが大きな役割を果たしています。近年の大統領選では、大統領候補のディベートは3回、副…

2016/10/15

第18回 第3党の候補者〜リベラルなジル・スタイン、マリファナ支持者のゲイリー・ジョンソン〜

今回の大統領選では、二大政党の候補者の不支持率があまりにも高いため“第3党”の候補がいつになく注目を集めています。20党以上ある第3党の中で、最も多く話題…

2016/10/1

第17回 トランプの目玉公約・国境防御壁建造費は誰が払うのか?

数あるトランプの公約の中で支持者たちに最も人気があるのは「メキシコとの国境に壁を建造する」というものです。 予備選の間は、この「壁」は「不法移民対策…

2016/9/15

第16回 ヒラリーとトランプの対照的な黒人問題対策 有権者に支持されるのは?

2008年にオバマが大統領に当選したとき、アメリカ人のほとんどが「これでやっと人種格差が是正されるだろう」と、大きな希望を抱いていました。しかし、オバマ…

2016/8/31

第15回 ウィキリークスで露呈した民主党の偽善

7月下旬、民主党大会の寸前に、ジュリアン・アサンジが創設したウィキリークスが民主党本部のEメールをリークしました。その結果、民主党本部が予備選が始まる…

2016/8/16

第14回 トランプ、党大会でタブーに言及。政教分離撤廃に挑戦?

18日から21日にかけて行われた共和党大会は、当初はクルーズ陣営が反乱を起こす、と噂されていましたが、開始時にちょっとした口論はあったものの、代議員の9割…

2016/7/31

第13回 ヒラリーvsトランプ、対照的なテロ対策

今回の大統領選では、テロ対策も大きな争点となっていて、二人とも「イスラム国を潰し、アメリカの安全を守る」という公約を掲げ「私のほうがテロ対策に強い候…

2016/7/15

第12回 繰り返される銃乱射事件−本選では銃規制、対テロ、対移民政策が争点に?

アメリカでは、41%の人々が銃(拳銃、ライフルなど)を所持していて、彼らは銃所持権は合衆国憲法補正第2条で保証されている“基本的人権の一つ”だと心の底から…

2016/6/30

1〜10 / 21件 次の10件

プロフィール

28

ジャーナリスト

エジプト、カイロ大学で比較心理学を専攻。イスラム教徒。1989年から1994年までNHK教育テレビ『英会話』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系CNNモーニングのキャスターを務め、1994年、ヨーロッパに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、アメリカのレッド・ステイツ(共和党が強い非都会型の州)の実態を様々な媒体でリポート。

著書:
『レッド・ステイツの真実−アメリカの知られざる実像に迫る−』(研究社)
『オバマ失言で学ぶアメリカ』(ベストセラーズ)
『警告!絶対にマネをしてはいけない「ブッシュ君」英語集−正しい英語例つき』(マガジンハウス)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっとわかる』(講談社)

  • 会員登録
  • ログイン
今日の天気(05:00発表)
名古屋
曇りのち雨
27 ℃/--
東京
曇りのち雨
24 ℃/--
大阪
曇り時々雨
29 ℃/--
  • 現在、渋滞情報はありません。
  • 登録路線が未設定です。
  • 公式 Twitter はこちら
  • 公式 Facebook はこちら
クラウドファンディング 夢チューブ 中日新聞
東京新聞 電子版
中日新聞の人材研修 ビジネストレーニング「ビズトレ」
中日販売サポート
東海テレビ 庄野アナと 新聞を音読してみよう!
中日防災ナビ
こどもウイークリーのこーなー
過去の企画・特集