アッバス・キアロスタミ監督特集 2016/12/6

アッバス・キアロスタミ監督

気がつけば師走。もう一年の終りだ。歳をとるにつれ月日の流れが速くなっているように感じるのは気のせいだろうか。こんなスピードでは、人生の終わりもすぐ来てしまう。だが生きている間は「死」は常に他者のもの。今年も、名だたる映画人が世を去った。

個人的には、60〜70年代の「007」シリーズを支えたガイ・ハミルトン監督と、同シリーズの美術デザインを手がけたケン・アダムがほぼ同じ頃(3月〜4月)に亡くなったのが印象深い。

G・ハミルトンのキッチュな演出と、K・アダムによる奇想天外なセットの造形は、「007」のお楽しみのひとつだった。フランスのヌーヴェルヴァーグの名匠ジャック・リヴェット監督(『セリーヌとジュリーは舟でゆく』、あれほどに美しく、楽しく、クレージーな映画はない)、『ディア・ハンター』のマイケル・チミノ監督、『灰とダイヤモンド』のアンジェイ・ワイダ監督の死にも、等しく寂しい思いがした。

また映画人ではないが、『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』で、バッハの庇護者・レオポルト候役を演じたニコラウス・アーノンクールも鬼籍に入った。20世紀後半のマンネリ化したクラシック音楽界に新風を吹き込んだ傑出した演奏家・指揮者だ。たった1本の映画出演ではあるが、その姿がバッハの音楽とともにフィルムに刻まれたのは僥倖と言える。

そうした忘れがたい人々の中でも、とりわけその死が 残念なのは、アッバス・キアロスタミ監督だ。彼の『友だちのうちはどこ?』(87年)、『そして人生はつづく』(92年)を初めて見たときの驚きは今も忘れられない。

友だちのノートを間違えて持ち帰った少年が、なんとかその日のうちに返却しようと奮闘する前者は、シンプルな物語の中にサスペンスが巧みに折り込まれ、何よりも子供たちの表情、動きの豊かさに圧倒された。

1990年のイラン地震の後に制作された後者は、地震で消息不明になった少年を探しに行く映画監督の物語で、メタフィクショナルな構成にユニークなセンスが光った。映画監督の旅は、災害による道路封鎖などによって行き当たりばったりになってしまう。そこには、人智を越えた現象に左右されて生きるしかないヒトの人生を、積極的に肯定しようという作り手の力強い意志を感じた。キアロスタミ、繊細にして、懐の大きい作家だったとあらためて思う。

…「だった」、そう過去形で語るしかない寂しさ。彼ほど 新作が楽しみだった監督はいない。ヒューマンな味わいが前面に出た『桜桃の味』(カンヌ映画祭パルムドール受賞作 97年)、『風が吹くまま』(99年)の二作で世界的にもトップクラスの監督として認められたが、その地位に甘んじることなく、自由で野心的な作品を作り続けた。

祖国イランが保守化し、映画制作が困難になるとイタリア、日本で新作を撮った。そして、これほどの世界的巨匠でありながら、2003年にふらりと名古屋シネマテークに現れるという、当劇場史上に残る出来事もあった(そのときの話は、こちらから。よかったらご一読下さい)。

そんなキアロスタミの追悼特集を当劇場では、12月10日(土)から開催する。正直に言うと、「追悼特集」とか「追悼上映」は、あまり好きな企画ではない。やはりその監督が生きている間に上映し、新作を楽しみに思ってくれる人が一人でも増えたらいいと思うからだ。もはや我々は残された作品を見ることしか出来ない。追悼企画には、そんな切なさが付きまとう。

だが、「作品」は生き続ける。「追悼」とは、残された作品を未来へと送り届けるためのもの、そう考えたい。今回は、『友だちのうちはどこ?』などの代表作から、劇場初公開となる『シーリーン』(2008年)まで全12作品を上映する。そして映画はつづき、行き当たりばったりの旅は終わらない。ぜひ、旅にご参加下さい。

『友だちのうちはどこ?』より 「キアロスタミ監督特集」は、12月10日(土)より名古屋、2017年1月7日(土)より京都にて開催
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プロフィール

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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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