大井川鐵道井川線、922日ぶりに全線で運転再開〜秘境駅を訪ねて〜 2017/3/29

井川線の全線運行再開祝賀列車

大井川鐵道の井川線は、小さな車両が山深い渓谷を走る風光明媚な路線として知られています。蒸気機関車が走る大井川本線の終点・千頭駅から井川駅までの25.5kmを、約1時間50分で結ぶ路線です。

その中ほどにある接岨峡温泉駅と井川駅の間10.0kmが、約2年半前となる2014年9月2日に不通となりました。急峻な斜面が崩れて、土砂が線路を覆ってしまったのです。しかも、線路の土砂を取り除く作業をすると、二次災害が発生する可能性がある危険な状態でした。

そこで、慎重に復旧作業を進めていったところ、922日にもわたる運休期間を経て、ようやく今年3月11日(土)の運転再開にこぎ着けたのでした。

祝賀列車は、運転再開の一週間後となる3月18日(土)に、沿線の人々と大井川鐵道でつくる「南アルプスあぷとライン周辺地域誘客協議会」が走らせました。当日は、午前9時30分から千頭駅でセレモニーを行い、その後に記念列車に乗車して井川へ向かうというものです。

その記念列車には、かつての井川線の塗装に戻したDD206ディーゼル機関車がつき、「祝 全線運行」のヘッドマークをつけて走りました。上の写真がその様子です。DD20形機関車は重連で、2両目についているのが、一般的な塗装車です。

秘境駅第二位の尾盛駅は、駅につながる道が無い!

井川線は、車窓の眺めが良いだけでなく、個性的な路線としても知られています。先に紹介した祝賀列車の写真は、アプトいちしろ駅で撮ったものですが、ここで列車の千頭駅側に補助機関車が連結されます。ED90形という電気機関車です。

井川線は全線非電化単線なのですが、このアプトいちしろ駅から次の長島ダム駅間だけは、電化されています。これは、長島ダムの下から上まで一気に上り下りするために、アプト式という日本にここだけの仕組みを採用しているためです。アプト式は、こぎり状のレールを通常のレール間に敷き、それに歯車を絡ませて進むものです。歯車は前述のED90という専用機関車についていて、上るときは列車を押上げ、下りるときはブレーキ役を果たすようになっています。

さて、約2年半ぶりに運転を再開した区間に入ると、最初に停まるのが尾盛(おもり)駅です。上の写真をご覧いただくと、周りは山ばかりで何もないですよね。そうなんです。ここには人が住んでいません。さらに、駅につながる道もなく、唯一のアクセス手段が井川線の列車となります。

井川線が開通した頃は、ここから木材を運び出していたそうです。また、かつて登山ブームだった頃には、南アルプスへの登山口としても利用されていたそうです。ところが、いまやどちらもこの駅を利用することはなくなりました。運転休止前には、駅付近に熊が出たからと、大井川鐵道が乗客の下車を禁止したことさえありました。

それだけに、牛山隆信氏による話題の「秘境駅へ行こう」では、尾盛駅が秘境駅ランキング2位となっています。1位の函館本線小幌駅は、JR北海道が廃止を予定したものの、維持費を地元の豊浦町が負担すると提案してきたため、廃止を見合わせているところです。廃止の可能性は依然として高いだけに、もし同駅が廃止となれば、尾盛駅が秘境駅1位となることでしょう。

関の沢橋梁上から眺めた険しい渓谷

尾盛駅を発車してしばらく進むと、トンネルが続きます。3つ目のトンネルを抜けると、いきなり渓谷の上に出て、列車は徐行します。

ここは関の沢橋梁という日本一高い鉄橋で、川底からレールまでが70.8mもあるそうです。上の写真は、乗車した列車に展望車がついていたため、敢えて同車に乗って窓のない状態で橋上からの眺めを撮影したものです。高所恐怖症の方は、この区間で展望車に乗るのは避けた方がよいかもしれませんね。

鉄橋下の沢の水は写真奥に向かって流れ、正面付近で大井川に合流し、右奥へと谷を下っていきます。付近はやはり民家がなく、電源開発とはいえ戦後早々によくこの線路を造ったものだと感心します。

ちなみに、この鉄橋を渡ってすこし進んだところが、長期運休の原因となった土砂崩れの箇所です。さもありなんと思うような光景ですよね。

井川線は、全線を通して走る列車が一日わずかに4往復。ほかに運転再開区間を除いた千頭駅〜接岨峡温泉駅間に1往復あるだけです。何度行っても楽しい、汽車旅を満喫できる路線ですが、終点の井川駅から戻る最終列車は15時54分発と早いです。

以前は井川と静岡市内を結ぶ路線バスがありましたが、いまはありません。それだけに、あらかじめスケジュールを立ててからいかないと、乗り遅れてしまったでは済まされない路線です。

運賃は、金谷〜千頭〜井川間が片道で3,130円と割高ですが、2日間有効の「大井川周遊きっぷ」は4,400円ですので、この切符を使って1泊2日で行くのがお勧めです。宿は、同きっぷを使いバスでアクセスができる寸又峡温泉にあるほか、井川駅から自主運行バスでアクセスする井川の町中や、接岨峡温泉駅近く、奥泉駅近くなどにもあります。

また、大井川本線の川根温泉笹間渡駅付近にもありますし、金谷駅まで戻って東海道本線に乗れば、静岡はもちろんのこと、島田・藤枝・掛川などの各駅にビジネスホテルもあります。

これからの新緑シーズンに、都会の喧騒を逃れて奥大井の自然を満喫してみるのはいかがでしょうか。

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(有)鉄道フォーラム 代表取締役

1958年愛知県犬山市生まれ。大学卒業後に10年のサラリーマン生活を経て、当時話題だったパソコン通信NIFTY-Serveで鉄道フォーラムの運営をするために脱サラ。1998年に(有)鉄道フォーラムを設立。2007年にニフティ(株)がフォーラムサービスから撤退した際に、独自サーバを立ち上げて鉄道フォーラムのサービスを継続中。

一方、鉄道写真の撮影や執筆なども行い、「日本の“珍々”踏切」(2005.2 東邦出版刊)、「鉄道名所の事典」(2012.12 東京堂出版刊)、「トワイライトエクスプレス」食堂車ダイナープレヤデスの輝き−栄光の軌跡と最終列車の記録−(2015.9 創元社刊)など著書多数。

当「達人に訊け!」をまとめた書「東海鉄人散歩」(2018.7)が、中日新聞社から刊行された。

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