自分を襲った病気が『糖尿病』であったことは幸運なのか? 2017/4/30

前回記事(「4/20 糖尿病だからといって落ち込まないでください」)で、生活習慣が主に原因の糖尿病患者さん(主に2型糖尿病)に対する生活習慣に対する指導は、医師、薬剤師、栄養士、看護師、全員総掛かりでこれでもかと言うくらい”しっかり”やりますと書きました。

糖尿病患者の方に対して生活習慣や薬の飲み方、インスリン注射の使い方などを全ての医療スタッフが患者さんに説明する糖尿病教室があるのをご存じでしょうか?本当に、お医者さんも、看護師さんも、薬剤師さんも、栄養士さんも、入院された患者さんに、代わり番こに、何度も何度も、説明します。もう、何度も同じ話を聞いたとおっしゃる患者さんもおられます。でも、何度も何度も説明します。こんな病気、ほかにあるでしょうか?

患者さんから疎まれても糖尿病教室を医療スタッフがやる理由ははっきりしています。糖尿病は、糖尿病教室での指導を患者さんが実践すると効果があるのです(証拠があります。世界中の医療機関で証明されています)。

教室で言われたように食事指導でちゃんとカロリーを抑えると、糖尿病の進行を遅らせ皆さんの健康寿命は長くなります。HbA1c(過去1ヶ月から2ヶ月前の食事の状況を反映する糖尿病の検査値)は、そのための目安です。検査値をよくするのが目的ではありません。最近よく耳にするQOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)を改善させます。早期からの予防と治療、生活習慣の改善で、健康寿命も(それから脅かす訳ではないですが)文字通りの寿命も延びます。

「生活習慣と簡単にいうけど、普段の仕事が大変で、食事、運動、先生のいうようには出来ん」とおっしゃる方もおられます。私も私の母も運動不足ですし、よく分かります。

「なかなか体重を減らせんの」と、にこにこ笑って糖尿病の治療を受けられていた患者さんが、何年かたちお年を召され、「腎臓が悪くなってきたって糖尿の先生にいわれた。今度、腎臓の先生に診てもらうことになった。透析受けないといけないのかな」とおっしゃります。それから、また何年かたち、「眼がわるくなってきたらしいから、眼科を受けるように言われた」「なんでかなあ、良くならんのかなあ」としみじみおっしゃります。

この話は決して全ての患者さんのことではありません。でも、糖尿病治療に携わる全ての医療スタッフはこのような患者さんを知っています。ご本人もつらいでしょうが、長い治療の10 -20年の間に、自分の目の前にいた患者さんがここに書いたようなことになるのは、医療スタッフにとってもつらいことです。

最初に書きましたが、糖尿病は、糖尿病教室での指導を患者さんが実践すると効果があるのです。早期からの予防と治療、生活習慣の改善で、健康寿命も寿命も延びます。そうなることが分かっているのに、医療従事者が患者さんに十分な指導をしないことはあり得ません。

私は、先ほどの内科の先生に、「病院で、何度も何度も糖尿病教室をやっていて、患者さんは、食事、運動、薬の飲み方、インスリン注射の使い方をよくご存じです。薬局で同じことをまた時間を割いて説明して意味あるでしょうか?患者さんから煙たがられますし、どうなんでしょうね」と伺いました。

その答えは「それはわかります。でも、やって下さい。煙たがられても何度でもやってください。病院でも他のスタッフの人にもそう頼んでいます。理解度は患者さんによって様々ですから、病院でよく分からなかった人が、薬局での説明で分かっていただけることがあります。よくご存じの患者さんでも勘違いしていることがあります。たとえ疎まれても、一人でも救える人の数を増やせるのですから、十分価値があります。」

想像してみて下さい、がんなど治療が難渋する病気は多いです。誰のせいでも無く思い通りにならない病気は多いのです。教室で先生の話を聞いて病気が治るんだったら苦労しませんよね。でも、生活習慣が主に原因の糖尿病はちがいます。自分の取り組みでこれからの残りの人生を改善させることが出来る数少ない病気です。ですから、このブログのタイトルに書きました。自分の思い通りにならない病気が多いなか、自分でなんとすることができる糖尿病だということは幸運かもしれません。

生活習慣を改善するのは難しいです。だから習慣なのですよね。ラスト10(テン)イヤーズ(Make Health Last. What will your last 10 years look like ?)という動画が以前ネットで話題になったことをご存じでしょうか? 是非youtube等で検索してご覧下さい。

私が、右側の動画の寝たきりの人生で晩年をすごすのか、左の健康を謳歌する晩年を過ごすのかは、わかりません。

岐阜薬科大学 実践薬学大講座 医薬品情報学研究室 教授

中村光浩
昭和62年 岐阜薬科大学大学院修士課程修了。昭和62年(株)大塚製薬工場入社、代謝分析研究および臨床開発に従事。平成5年より岐阜大学医学部附属病院薬剤部(製剤主任、薬品試験主任)。平成18年より岐阜薬科大学 医薬品情報学研究室において、臨床ビッグデータ解析、生体マトリックス中薬物濃度の高感度分析法、メタボロミクスによるバイオマーカーの探索(癌、皮膚バリア機能を対象)をテーマとした研究を行なっている。岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科 非常勤講師。岐阜県大学薬剤師協議会 会長。

PR情報

記事一覧

美と健康は表裏一体

前回は、肌の老化に関して紫外線や乾燥の影響をお話ししましたが、実は、肌の老化には全身の健康状態や全身の老化も関わっています。 前回記事「見かけ年齢に大…

2019/11/30

見かけ年齢に大きなインパクトをもつ肌の老化

7月20日公開の第2回目のコラムで、見かけ年齢を左右する要因として、「シワ、シミが目立たない」、「肌ツヤが良い」、「タルミが目立たない」という肌の老化…

2019/11/20

健康情報や美容情報の氾濫に飲み込まれないようにするには

現在、シミ(肝斑に限る)用の医薬品、化粧品的なシミ・シワ・肌荒れには薬用化粧品(医薬部外品)、健康や肌状態を訴求した特定保健用食品、そして、有効性を…

2019/11/10

新しい糖尿病治療薬:経口GLP-1作動薬

第1回記事:新しい糖尿病治療薬 第2回記事:新しい糖尿病治療薬:グリフロジン製剤 筆者が薬学生だった頃、「タンパク質のような高分子は消化管から吸収され…

2019/10/30

食品の安全性を考えるB 〜食品添加物は悪者なのか?〜

今回も前回、前々回に引き続き、食品の安全性についてのお話です。今回は食品添加物について考えてみたいと思います。 前回記事『食品の安全性を考えるA 〜食…

2019/10/23

新しい糖尿病治療薬:グリフロジン製剤

第一回記事:新しい糖尿病治療薬 糖尿病と言うぐらいですから、尿に糖が排泄される病気であることは容易に想像がつくでしょう。実際、糖尿病では尿糖が陽性と…

2019/10/20

新しい糖尿病治療薬

読者の皆さんの中にも、成人病検診などで「耐糖能が悪化していますね」と言われたご経験のある方も居るのでは? かく言う筆者も、年々ヘモグロビンA1c(どの程…

2019/10/10

食品の安全性を考えるA 〜食品中に存在するリスクって何?〜

今回も前回に引き続き、食品の安全性についてのお話です。今回は食品中に存在するリスクについて考えてみたいと思います。 前回記事『食品の安全性を考える@ …

2019/10/4

食品の安全性を考える@ 〜天然由来成分は本当に安全なのか?〜

食物を食べるということは、我々人間が毎日行うごく当たり前の行為であり、また生きていく上で必要不可欠なものです。それ故に、食品は安全なものでなければな…

2019/9/10

クスリにまつわるお金のはなし 〜製薬会社のお弁当〜

日本の国民医療費は、最近では年間42兆円、一人当たり33万円を超えています。これらの費用のほとんどは、私たちが毎月収めている健康保険料や税金、患者自己負…

2019/8/30

プロフィール

19

達人に質問をする

本学は、美しい金華山と長良川などの自然に恵まれ、また歴史と文化の薫漂う岐阜市の北部に位置し、80有余年に及ぶ歴史の中で、建学の精神である「強く、正しく、明朗に」をモットーに、「人と環境に優しいグリーン・ファーマシー」を基本理念とした薬学教育を通じ、安心で安全な医療に貢献できる薬剤師や、人と環境にやさしい方法で薬を創ることのできる研究者や技術者を養成しています。

地域に生き、世界に伸びる大学として、今までの実績を基にさらに発展し続ける努力を重ねております。

関連リンク

  • 会員登録
  • ログイン
今日の天気(05:00発表)
名古屋
曇り時々晴れ
11 ℃/--
東京
晴れ後曇り
11 ℃/--
大阪
曇り時々晴れ
11 ℃/--
  • 現在、渋滞情報はありません。
  • 登録路線が未設定です。

企画特集(PR)

  • 公式 Twitter はこちら
  • 公式 Facebook はこちら
クラウドファンディング 夢チューブ 中日新聞
東京新聞 電子版
中日新聞の人材研修 ビジネストレーニング「ビズトレ」
中日販売サポート
東海テレビ 庄野アナと 新聞を音読してみよう!
中日防災ナビ
こどもウイークリーのこーなー
過去の企画・特集