親父と睡眠薬の話(笑い事ではありません) 2017/8/20

もう10年くらい前なのですが、岡山県の田舎に帰省したとき、山あいの駅に到着、夜10時をまわっていましたから、携帯電話で実家に連絡して、父に麓の駅まで迎えに来てもらいました。そういう時に親父に家から5km程の山道を軽トラで迎えに来てもらうことは、良くあることなのです。私は「ありがとね」といって助手席に乗り込んだのですが、駅から家までの道のりのほんの10分くらいの運転が、なんだかふわふわフラフラと危なっかしいのです。

父は普段から田舎で百姓仕事してますから、運転は上手いですよ。晩酌はしない父ですが、「まさか、お酒のんでないやろうな」と尋ねると、「飲んどりゃせんわ」と返事です。そりゃそうだよなと思い、フラフラした運転ですが世間話をしながら家に着いて、その日は、夜も遅いので直ぐ寝ました。

問題は、次の日の朝ご飯です。

父が、私の顔をみるなり「光浩(←私の名前)、帰っとたんか。いつ着いた。昨日、タクシーで家まで来たんか」です。私は「???」です。その会話を聞いた母がすかさず、父に「あんた、昨日、迎えに駅にいっとったが、何を言っとるの」、父「わしゃあ、迎えにいっとりゃせんが」、母「あんた、迎えにいっとったが」ここから無限ループで、母が「とうとう、あんたボケたわ」で丸く収まりました。

さあ、私もこんなことは生まれて初めてだったので、そこからいろいろ父に話を聞いて原因が分かりました。幸いなことにボケではなかったです。

原因は睡眠薬の副作用の1つの、一過性前向性健忘症(薬を飲んでから睡眠に入るまでの出来事を忘れてしまうこと)でした。睡眠薬の中でも、寝付きをよくするタイプの超短時間作用型といわれる薬によくみられる副作用です。

つまり、たまたまその日、病院で「最近、寝付きが悪いから」とお医者さんに言った父が、初めて睡眠薬をもらった。その時、お医者さんと薬剤師からは、「この薬を飲むと“ふらつくことがある”と“飲んで直ぐのことを忘れることがありますから、飲んだら直ぐ布団に入るように”」と説明を受けていた。

でも、その日の夜に薬を飲んで布団に入ったところで、たまたま、息子から「山の麓の駅まで迎えに来て」と言う電話があった。親心として、やっぱり迎えに降りなければいけない。おまけに睡眠薬を飲むのも初めてなので、前向性健忘症の副作用、なんじゃそれといったもんです。なので、フラフラ運転で、朝になったら自分が迎えに降りたことを全く覚えていないということだった訳です。

なんと言っても、一番悪いのは、夜中に帰省して、タクシー代をケチって、老いた父親を電話で起こして車で迎えに来てもらった息子の私です。幸い事故もなかったので、このブログで笑い話として紹介出来ます。是非、皆さん反面教師にしてください。

今回は睡眠薬の副作用の話をしましたが、皆さんを脅すつもりはありません。今日お話した超短時間作用型の睡眠薬は古くからある安全な薬です。日本中、世界中で多くの人に今でも使われ続けています。勿論、こんなことがあっても自分の父親が飲むのは大丈夫と考えています。問題は、正しく使うかどうかです。

睡眠薬は、本当によく使われるお薬ですから、次のブログでもう少し普段の生活で気をつけた方がよいことを書きます。

中村光浩
昭和62年 岐阜薬科大学大学院修士課程修了。昭和62年(株)大塚製薬工場入社、代謝分析研究および臨床開発に従事。平成5年より岐阜大学医学部附属病院薬剤部(製剤主任、薬品試験主任)。平成18年より岐阜薬科大学 医薬品情報学研究室において、臨床ビッグデータ解析、生体マトリックス中薬物濃度の高感度分析法、メタボロミクスによるバイオマーカーの探索(癌、皮膚バリア機能を対象)をテーマとした研究を行なっている。岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科 非常勤講師。岐阜県大学薬剤師協議会 会長。

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