お年を召されることと睡眠薬の話 2017/8/30

さて、睡眠薬には、入院したとき、いつもと環境が違うので入院期間だけちょっと処方される睡眠薬があります。

寝付きをよくする薬といわれている超短時間作用型の睡眠薬です。その他にも、夜中目が覚めるのが辛いという方には、少し効き目の長い短時間作用型、中間型などが処方されます。いろいろな薬が、患者さんの状態に合わせて処方されますから、細かな違いは是非、お医者さんや薬剤師さんに尋ねて下さい。

前回、超短時間型睡眠薬の「一過性前向性健忘症」の話をしました。前向性健忘症では有名な話に、国際学会で講演を依頼された大学教授が、アメリカ行きの飛行機のなかで一生懸命、発表原稿を覚えます。覚え終わったので空港到着まで一眠りしたい、機内はうるさくてなかなか眠れませんから睡眠薬を飲んで寝た。到着して目が覚めた時には原稿を全く覚えていなかったというのがあります。これは本当の話です。

ですから、皆さん、睡眠薬を飲んだ後は、直ぐ布団にはいる。あるいは、枕元に薬を置いておき、布団をかぶってから飲むようにしてください。一度、飲んで布団にもぐったら、また、起き上がって活動しないこと、例えば、電話が鳴っても大切な話はしないことなどです(全く、覚えていないことがあります)。

誰にでも当てはまる注意点を少し説明します。もしも、睡眠薬を飲んでいれば、自分はいつもと同じ、大丈夫と思ってもふらつき気味になります。ボーっとした感じがして、注意力が落ちます。ですから、お年を召された方は、睡眠薬を飲んで就寝され、夜中、トイレに行くときは注意して下さい。転んだりしたら大変です。車の運転は配偶者の人に頼むとかしてください。

それから、朝起きてボーっとした感じがするときは、お薬の量が、少し多いかもしれません。なんか朝、フラフラした感じがするというときは、先生に相談してください。私の父が、「なんかボーっとするなあ」と言うと、母が「そりゃ、あんたが年をとったからボーっとしとるだけじゃ」と言いますが、そんなことはありません。薬が少し多いのであれば、お医者さんが量を調整すれば、寝付きも良くて、朝もすっきり過ごすこともできます。

朝になっても、睡眠薬が体の中に残っていて、フラフラした感じ、ボーっとする感じがするのは、睡眠薬が高齢の方の体から消えにくくなっているためです。理由には3つありまして1つ目は肝臓で薬を分解する働きが弱くなるため(薬物を代謝する酵素の働きが若いときに比べて下がる)、2つ目は腎臓からおしっこを通して体の外にだす働きが下がるためです。

3つ目は、年をとると体重に占める脂肪の割合が多くなるためです。ちなみに、この逆が、赤ちゃんは体重に占める水分の割合が高いという事実です。これは、お年寄りのほっぺたをツンツンしたときと、赤ちゃんのプルンプルンのほっぺたをツンツンしたときの違いといえばおわかりになるでしょう(あまり、この話を詳しくやると、このブログの読者の半分を占める女性の方を敵に回しますので、以下略)。

睡眠薬は脳に作用して眠くなります。そのためには血液中の薬物が、脳の中に入るために血液-脳関門という脂肪でできた膜のようなところを通り抜けないといけません。多くの睡眠薬は血液-脳関門を通り抜け易い性質、つまり脂肪に溶けやすい性質を持っています。そのため、睡眠薬は体の脂肪中にもたくさん溶け込んで保存されます。その結果、体脂肪の割合が多いお年寄りは、薬物の消失が遅くなりがちとなります。

以上の3つ理由から、お年を召された方が、若いときと同じ量の睡眠薬を飲むと、体の中に残りがちになり、夜中起きてお手洗いにいくときに、ふらつきやすくなったり、朝、なんだか薬が残った感じがするようになるわけです。良い睡眠は良い人生にとって大切なものです。睡眠薬は、その助けになる大切なお薬ですが、ちょっとした落とし穴があるので、少しだけ日常生活に注意していただければと思います

中村光浩

昭和62年 岐阜薬科大学大学院修士課程修了。昭和62年(株)大塚製薬工場入社、代謝分析研究および臨床開発に従事。平成5年より岐阜大学医学部附属病院薬剤部(製剤主任、薬品試験主任)。平成18年より岐阜薬科大学 医薬品情報学研究室において、臨床ビッグデータ解析、生体マトリックス中薬物濃度の高感度分析法、メタボロミクスによるバイオマーカーの探索(癌、皮膚バリア機能を対象)をテーマとした研究を行なっている。岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科 非常勤講師。岐阜県大学薬剤師協議会 会長。

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