食品用の器具や容器包装についても「ポジティブリスト制度」が導入されます。 2017/7/21

合成樹脂の一種ポリエチレンテレフタラート(PET)を材料に作られた飲料容器・ペットボトル

我々がスーパーやコンビニエンスストアなどで購入する食品は何らかの容器に入っているか包装されています。これらの容器包装には食品が直接触れるため、その材料に含まれる種々の化学物質が食品に移行する可能性がありますが、安全性を気にしたことはないですか。

材料には有害な化学物質を含んでいることもあり人の健康を損なうおそれがあることから、わが国では食品衛生法(第16条)でそのような容器包装を製造、輸入、販売しない、また実際の食品に使用しないように規制しています。

現在我が国の規制は、前回(7月10日)に述べた食品中残留農薬の「ネガティブリスト制度」と同じで、原則食品用の器具や容器・包装の材料ついて安全性に懸念がある物質(ネガティブリスト)のみに個別の規格基準や製造基準、試験法などを設定して規制しています。

規格試験には安全性を確認するための溶出試験と材質試験があります。溶出試験は材料から溶け出す化学物質の濃度、材質試験は材料中に含まれている化学物質の含量を測定しています。

ビスフェノールAの化学構造式

今から20年ほど前、内分泌撹乱化学物質、いわゆる環境ホルモンによる食品汚染が大きな社会問題になりました。環境ホルモンと疑われたビスフェノールA(以下BPA)がポリカーボネート(以下PC)の食器から溶出することがわかったため、全国各地の小・中学校の給食に使用されていたPC食器が、他の材質の食器に置き換えられることがありました。

文部科学省の「学校給食における食堂・食器具使用状況調査(平成18年5月1日現在)」によると、問題となった前年の平成9年には小・中学校のPC食器は33.5%と高い使用率でしたが、問題となって以降急に減少し平成18年には6.7%まで低下しました。

先にも述べましたように、食品衛生法にはPC食器の安全性を確保するための個別規格があります。PCは、BPAが重合反応して、長い鎖状の高分子となった合成樹脂(プラスチック)製品であるため、その原料となるBPAについて、材質試験で500 μg/g以下の含量、溶出試験で2.5 μg/ml以下と定められています。平成10年5月学校給食で使用される食器について国(当時厚生省)が調査し規格基準を大幅に下回っていることから「使用を規制(禁止)する必要はない」との判断を示しましたが、使うか使わないかについては各自治体に任せる方針にした結果、多くの自治体が他の食器へと変更したのでした。

基準は安全性を十分に確保したものとして設定されています。その基準値を大幅に下回っているにもかかわらず安心が得られないことについては、この分野において基準値設定に関連する研究に携わる我々にとってとても歯がゆい思いがします。

今や輸入食品なくして日本の食生活は成り立たなくなっています。また、この先輸入食品の関税が引き下げられ、撤廃されるようになれば、益々輸入食品が増加することになります。今の制度では国内にない容器包装が使用された食品が規制されることなく輸入されることになります。

そこで、厚生労働省は、2018年をめどに食品衛生法を改正し食品用の器具や容器包装にもこの「ポジティブリスト制度」を導入したい考えを示しました。ポジティブリスト制度は、安全性が確認されている素材に限って使用を認める制度で、米国、欧州(EU)、中国、ブラジル、オーストラリア、ニュージーランドなど多数の国が既に採用して、国際的に主流となっています。

関税撤廃の話は日本への輸入品だけでなく、日本からの輸出品に対しても撤廃されるので、美味しくて何より安全な日本の食品の輸出を拡大するチャンスにもなります。輸出相手国の多くがポジティブリスト制度を採用しているのですから、日本も同じ制度にしないと輸出拡大の障害になる恐れがあります。

現在我が国の規制は、「ネガティブリスト制度」なのですが、実際には合成樹脂の容器包装に関連する主な3業界団体(ポリオレフィン等衛生協議会、塩ビ食品衛生協議会、塩化ビニリデン衛生協議会)が既に自主的にポジティブリスト式を採用して対応しています。新制度は先ず合成樹脂の器具や容器包装を対象に導入するようですから、これらの団体の基準に沿った材料については大きな影響はなさそうです。

しかし、団体に加入していない業者や海外の材料については新制度導入の際の対応に問題が生じることが予想され、制度を管理する側の周到な準備と食品を扱う事業者への丁寧な説明や周知が重要な課題になりそうです。

容器や包装による重大な健康被害の報告は近年ほとんどありませんが、輸入量は年々増えており、早く新しい制度を導入し安心して飲食を楽しみたいものです。

        岐阜薬科大学 永瀬久光教授

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