飲酒で顔が急に赤くなる人は「発癌リスク」が高い(1)アルコールフラッシング反応 2018/4/10

今年は桜の訪れが少し早いようでしたが、新年度が始まり歓送迎会、お祝い会、花見、…と、何かとお酒をいただく機会が多い時期ではないでしょうか。

私たちにとって身近なお酒ですが、飲み過ぎた翌日の二日酔いの辛さや飲酒の上の失敗など、実体験によって身にしみて分っていることもあれば、お酒にまつわる科学的とはいえそうもない言い伝えや健康術も多くありますね。そこで、今回は飲酒と発癌の関係やその科学的原因およびそれを実際に測定する最新の方法等についてお話ししたいと思います。

宴会中の人々の表情は人それぞれで、たくさんの飲んでいるのに素面顔でこれぞ「上戸(じょうご)」という人もいれば、コップ一杯のビールしか飲んでいないにもかかわらずいかにも酔っていますとばかりに紅潮した顔の人や気分が悪そうな人もいます。陽気な笑い上戸、ときには泣き上戸もいたりし、またアルコールを全く受け付けない「下戸」といわれる人もいるでしょう。

蛇足ながら、下戸という言葉の由来は諸説あるようです。平安時代の律令制下では、家族の構成や資産によって四等戸(大戸・上戸・中戸・下戸)に階級分けされ、婚礼に出せる酒の量が、働き手が多く納税額も多い「上戸」では8かめ、納税額の少ない「下戸」では2かめと決まっていたそうです。このことから、酒をたくさん飲める人を「上戸」、飲めない人を「下戸」と呼ぶようになったのだとか。

また、中国発祥説では、秦の始皇帝の時代、万里の長城の山上の門「上戸」の守備兵には山の寒さをしのげるように酒が配られ、平地の門「下戸」の守備兵には疲れを癒すため甘い物が配られたことに由来するとか。

さて、語源はともかく、上戸と下戸の違いは飲んだアルコールの体内における代謝の違いによると考えられます。アルコールは、ヒトの体にとっては薬と同じように異物として体外に排泄する必要があり、少なくとも栄養成分のように積極的に体内に取り入れるべきものではありません。

私たちの体は、摂取したアルコールを消化管で吸収した後、その大部分を肝臓で代謝し、最終的には水と二酸化炭素にして体外に排出しています。これには図1に示すように、主に二段階の酵素反応が関わっています。

図1 アルコールの代謝過程(酢酸は最終的には水と二酸化炭素となり体外に排泄される)

第一段階はアルコール脱水素酵素(ADH)によりアルコールをアセトアルデヒドに分解する反応、第二段階は2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)によりアセトアルデヒドを酢酸に変換する反応です。アセトアルデヒドは悪酔いの原因物質と言われ、生体に種々の悪影響を与える化学物質です。したがって、ALDH2の活性が低いと、アセトアルデヒドが急激に体にたまることが原因となって、ビールコップ1杯程度の少量の飲酒でも顔面紅潮、吐き気、動悸、眠気、頭痛などの症状が現れます。

このようにALDH2の働きが弱い人に見られる反応をフラッシング反応といい、少量の酒でフラッシング反応を示す人をフラッシャーと呼んでいます。酒が強い、弱いに関係するのは、もちろんADHの活性にも起因しますが、フラッシング反応は主に第二段階のALDH2の活性の問題であるといえます。

多くの酵素は生体内で合成されるタンパク質で、20種のアミノ酸を構成成分として、たくさんのアミノ酸が結合してできた巨大分子(生体高分子)です。ヒトのALDH2は517個ものアミノ酸が連なったタンパク質で、487番目のアミノ酸がグルタミン酸のもの(ALDH2*1)とリシンのもの(ALDH2*2)があります。このタンパク質が酵素機能を発揮するときは4量体として機能し、4つとも全てALDH2*1のときにアルデヒドを酢酸にすることができるのです。

また、人がALDH2*1またはALDH2*2の何れを生合成するかは、親から受け継がれた遺伝情報に従います。遺伝情報の継承と発現を担う生体高分子であるDNAの中のたった一つの塩基がグアニン(G)であるかアデニン(A)であるかに因っています。DNAの塩基配列は、親からもらった遺伝情報の組み合わせによるので、両親から塩基がGの遺伝子をそれぞれ1つずつ継承してホモに持っている人を正常タイプ(NN型)、同様に塩基がAに変異している遺伝子をホモに持っている人を欠損タイプ(DD型)、さらに両親からそれぞれ塩基がGの遺伝子と塩基がAの遺伝子を1つずつ継承したヘテロタイプ(ND型)とする3つの遺伝子多型が存在します。

したがって、NN型のDNAを持つ人は常にALDH2*1を生産するため、アルデヒドを酢酸に変換することができ、いわゆるお酒が強い上戸、つまり酒豪タイプといえます。また、DD型の遺伝子を持つ人は典型的な下戸と呼ばれ、このタイプの人はほとんどお酒を飲むことが出来ません。

一方、ND型のDNAを持つ人は、ALDH2*1のみの4量体を生成する確率が16分の1であることから、NN型に比べてALDH2のアルデヒド代謝の活性が極めて弱くなり、少量の飲酒でアセトアルデヒドが急激に体に蓄積するなどの現象を生じてしまいます。このことにより、少量の飲酒でも顔面紅潮や動機、眠気を感じたり、ときには吐き気、頭痛などを感じたりすることもあり、いわゆるフラッシング反応を起こすことになります。

さて、ALDH2の遺伝子多型は生まれつきの体質ですが、その出現率は人種によって異なっています。驚くことに、白人や黒人などは、全てNN型で、少なくともアセトアルデヒドの代謝という視点からみれば、酒に強い人種といえます。一方、ND型やDD型はモンゴロイドにのみに、それぞれ約45%、約5%の割合で認められ、東アジアを中心にお酒を飲めない人やフラッシャーと呼ばれる体質の人々が生活していることになります。

したがって、ALDH2の活性が低いため顔が赤くなることを「アジアン・フラッシュ」と呼ぶ人もいます。また、この分布は日本国内でも異なっていることが知られています。

図2を見て頂くと、日本の真ん中あたり、中日新聞のお膝元である中部地方はアルコールフラッシャーが多い地方と言えます。

図2 県別N遺伝子頻度(遺伝子頻度は,対立遺伝子Nを持っている割合で,NN型はホモで遺伝子の数は2本,ND 型ヘテロなのでN 遺伝子は1 本として,全体の遺伝子の数2 n(n =人数)の中に占める割合である.Nの遺伝子頻度が高いほどお酒に強い人の割合が多い県である.(中村,筑波大学技術報告, 31, 33-38 (2011),図4より引用)

九州男児は酒豪、秋田はお酒に強いという印象がありますが、ALDH2の活性に対する遺伝的要因を科学的に解析してもその傾向が認められることは興味深いことですね。

お酒を飲むと顔が赤くなるアルコールフラッシュ反応は、ALDH2が変異するために起こり、遺伝的要因であることを理解して頂けたと思います。つまり、ALDH2の活性が低い人は、少量の飲酒でも分解されないアセトアルデヒド量が多くなり、急激に紅潮したり、心臓がバクバクしたり、場合によっては頭痛がしたり、また極端な場合は吐き気を催すというわけです。

次回は、フラッシャーがお酒に弱いだけでなく、過度の飲酒が発癌に関わることについてお話ししたいと思います。

次回更新は4/20(金)です。

宇野文二 岐阜薬科大学機能分子学大講座薬品分析化学研究室・教授 岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科創薬専攻・教授(併)・研究科長補佐

昭和58年 岐阜薬科大学大学院修了。同年から岐阜薬科大学薬品分析化学研究室において有機電気化学の分子化学への応用を研究テーマにして、機能性分子創製と分子解析、協奏的なプトロン−電子移動反応を基礎とする生理活性に関する研究、高速液体クロマトグラフィー−質量分析計測システムの生命科学研究、臨床化学研究への応用、生体機能物質や環境汚染物質の超高感度蛍光および電気化学検出法の開発などを行なっています。分析化学は薬学などの生命科学の土台を支える重要な学問であることを意識し、基礎を意識した教育と研究に心掛けています。そんな基礎分野の視点に立って健康に役立つかもしれないお話しを書きたいと思います。

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