お薬に含まれる高分子の役割(1):高分子ってどんな物? 2018/5/10

「生まれてこのかた、薬など飲んだことがない」という方はおそらくいらっしゃらないことでしょう。頭が痛い、お腹が痛い、熱がある、血圧が高い、私たちはいろいろな理由でお薬を飲みます。このお薬の形(剤型)の一つに錠剤があります。

錠剤の重さは数百ミリグラム程度ですが、よくよく説明書を読むと、主成分の薬物(主薬)は数十ミリグラム程度で、大半は何か別の成分(医薬品添加物と呼ばれます)です。これらの添加物はお薬の働きを助けるいろいろな役割を持っていて、乳糖のような低分子だけでなく、高分子も利用されています。

高分子という言葉をよく耳にするかとは思いますが、どんな物でしょうか。身近にある高分子のいくつかを列挙すると、ポリ袋などのプラスチック、繊維、タンパク質などがあります。高分子とは、低分子である単量体(モノマー)(例えばポリエチレンの原料であるエチレン)が化学結合により多数つながった分子です。(図1)目安として、100個以上のモノマーがつながった化合物が高分子で、数個〜数十個つながった化合物をオリゴマーといいます。CMなどで出てくるオリゴ糖というのは、グルコース(分子量 180)などの単糖類が数個〜十個程度つながった化合物です。

高分子と低分子は分子量以外にも様々な違いがあります。低分子の場合は、図2の(A)にあるように、分子が規則正しく並んだ結晶か、あるいは(B)のように不規則になっている非晶質のいずれかしかとらず、1つの粒子の中で両者が混在することはありません。結晶は、分子が規則的に密に並んでいて分子同士の相互作用(分子間力)も強いので硬く、非晶質は不規則なため隙間が多くなり結晶よりも柔らかい状態です。また、物質が何らかの溶媒に溶けるというのは、分子レベルで物質の周りを溶媒が取り囲む(溶媒和)状態ですから、非晶質の方が溶け易くなります。

一方、高分子の場合は、図2の(C)のように、1つの粒子中に結晶部位と非晶質部位が共存することが可能です。したがって、同じ高分子(例えばポリエチレン)であっても、結晶部位が多いものは硬く、溶け難くなり、非晶質部位が多いものは柔らかく、溶け易いという特徴を持ちます。低分子の場合は、結晶か非晶質のどちらかしか取れないのに対して、高分子の場合は結晶部位と非晶質部位との割合を変えることにより、同じ高分子であっても様々な性質の高分子を作ることができます。

このような多様性を持つため、高分子は低分子ではできない機能性を持っことができます。ここに挙げたのは1例であり、この他にも高分子は低分子には無い様々な特徴を持っています。

今回は高分子とはどのようなものかという点について少しご紹介し、高分子は低分子では出来ない機能性を持っていることが解って頂ければと思います。次回は、皆さんが飲んでいるお薬の中で高分子がどのように使われているか、いくつかご紹介します。
余談ですが、身近な高分子であるゴムを使った実験をご紹介します。図3のようにフックに輪ゴムをかけ、ハンガーなどの重りをぶら下げるとゴムは伸びます。このゴムにドライヤーで熱風をあてるとどうなるでしょうか。興味がある方は実際にお試しください。

近藤伸一 (岐阜薬科大学 薬物送達学大講座 薬品物理化学研究室 教授)

平成3年 岐阜薬科大学大学院博士後期課程修了。同年 岐阜薬科大学 薬品物理化学教室助手。その後、講師、助教授を経て、平成19年より現職の岐阜薬科大学 薬物送達学大講座 薬品物理化学研究室教授。主な研究テーマとして、pHなどの外部刺激により物性が変化する機能性高分子の合成とその特性を活かした医薬品開発への応用研究、並びにプラズマ表面処理を利用した高分子材料表面の機能化とその表面への細胞膜の成分であるリン脂質自己組織化膜の構築などの新しい医療用材料等の開発を行っている。

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