副作用のない“夢の薬”を目指して 〜薬物送達システム(DDS)って何?〜(3) 2018/9/30

 前回はDDSの要素技術と薬物放出制御の例について紹介しました。今回は、標的指向性(ターゲッティング)を利用したDDSの例について紹介したいと思います。

 ここでは、注射によってお薬を投与する場合でのDDSについてお話をします。前回紹介しましたように、標的指向性には、能動的ターゲッティングと受動的ターゲッティングの2つがあります。能動的ターゲッティングは、薬物を運ぶドラッグキャリアーに標的部位に親和性の高い仕組みを結合させて、標的部位に選択的に薬物を届ける方法です。正常細胞には無く、がん細胞などの標的部位にだけ存在する物質(タンパク質など)が見つかれば、それと結合し易い(親和性の高い)仕組みを作ることにより、正常細胞には効かず、標的部位にのみ薬物を届けられるDDSが開発でき、理想的な治療が可能になります。抗原抗体反応というのをご存知でしょうか。ウイルスなどの病原体が体内に入ると、病原体のタンパク質など(抗原)に対して有効に反応する抗体を体内で産生し、生体内から病原体を除去する免疫機構が働きます。ある種のがん細胞に対して高い親和性を持つ抗体が開発され、その抗体と薬物との複合体による高い治療効果を持つ抗ガン剤も近年開発されています。図5は、このような抗がん剤のイメージです。

 一方、受動的ターゲッティングは、ドラッグキャリアーの物性(粒子の大きさや電気的性質など)によって制御するものです。例えば、細胞膜は、リン脂質や脂肪酸、タンパク質などから出来ていて、表面はマイナスに帯電しています。したがって、ドラッグキャリアーの表面電荷がプラスであれば、細胞膜と引き付けあい、注射をした局所に留まることになります。反対にドラッグキャリアーの表面電荷がマイナスであれば、細胞膜と反発しあうので、血中を長期間循環することが期待できます。また、図6のイメージのように、正常組織では血管内皮細胞が密に並んでいるのに対し、ガン組織では数百ナノメートルの隙間が開いていますので、100nm程度のドラッグキャリアーはガン組織に集まることが期待されます。さらに、ガン組織においては異物を体外に排出するためのリンパ系も未発達であるため、ガン組織に集まったドラッグキャリアーは長期間ガン組織に滞留することになります。このような正常組織とガン組織の特性の違いを利用したナノサイズのドラッグキャリアーを用いたお薬も世に出てきており、より副作用が少なく改善されたものも開発されています。

 近年バイオテクノロジーの進歩により、DNAなどの核酸やタンパク質などが活性の高い薬物として開発されてきています。しかしながら、核酸やタンパク質などを血中に投与しても速やかに代謝・分解されてしまいますので、そのままでは用いることができません。そこで、様々なドラッグキャリアーに核酸やタンパク質の薬物を封入したDDSが開発されており、今後このようなタイプのお薬もたくさん市場に出てくることでしょう。

 以上のように、様々なタイプの薬物が開発されるとともに、それを効率良く標的組織や細胞に運ぶDDS技術との組み合わせにより、より薬効が高く副作用のない“夢のくすり”が皆様の手に届くのも近い将来に訪れるものと期待されます。

近藤伸一 (岐阜薬科大学 薬物送達学大講座 薬品物理化学研究室 教授)

平成3年 岐阜薬科大学大学院博士後期課程修了。同年 岐阜薬科大学 薬品物理化学教室助手。その後、講師、助教授を経て、平成19年より現職の岐阜薬科大学 薬物送達学大講座 薬品物理化学研究室教授。主な研究テーマとして、pHなどの外部刺激により物性が変化する機能性高分子の合成とその特性を活かした医薬品開発への応用研究、並びにプラズマ表面処理を利用した高分子材料表面の機能化とその表面への細胞膜の成分であるリン脂質自己組織化膜の構築などの新しい医療用材料等の開発を行っている。

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