脊髄損傷のはなしA:自然治癒しないのは何故? 2018/11/14

前回記事「脊髄損傷のはなし@:運動と脳・脊髄

皆さんが普段経験されているように、皮膚のケガ(擦り傷や切り傷)は軽傷であれば、自然治癒します。このとき、出血が止まり、死んだ細胞・組織を取り除かれ(炎症反応)、線維芽細胞という細胞が集まってきて、かさぶたのようなもの(瘢痕組織)ができます。これで傷口はふさがって安定した状態になります。

脊髄損傷の時にも同様の反応が起こります。ただし、脳や脊髄には特有の事情があります。それは脳から末梢への情報の流れを作る「軸索の再生」です。前回お話ししましたように、脳からの指令が脊髄の運動神経細胞に伝わるには切れた軸索が伸びて「情報の流れ」が再開される必要があります。これを神経(軸索)の再生といいます。手足の感覚を伝える末梢神経は傷がついてもゆっくりと再生しますが、脳や脊髄などの中枢神経ではほとんど再生が起こりません。実はその大きな要因を作る現象が先に示した瘢痕形成なのです。この瘢痕が軸索の再生を邪魔するのです。

瘢痕を形成する主な細胞は線維芽細胞とグリア細胞です。

線維芽細胞は脊髄を包む髄膜や血液を供給する血管のまわりに存在しており、これらが炎症反応による刺激を受け、損傷部に集まってきて瘢痕をつくると考えられています。線維芽細胞は軸索の再生を促進するフィブロネクチンやコラーゲンなどの物質をつくる細胞ですが、これらの物質の上に死んだ細胞の破片や成分がくっつくと軸索が伸びるのを妨げられてしまいます。

もうひとつの細胞はアストロサイトと呼ばれるグリア細胞です。アストロサイトは脳・脊髄の神経伝達物質を作るのを助けたり、脳(脊髄)と血管の間の関門を形成・維持したり、します。この細胞も炎症反応に刺激され、損傷部で瘢痕を作ります。

2つの細胞は軸索再生をはばむ悪者のように書きましたが、逆にこれらの細胞がいないと軸索再生がうまくいかないことも分かっています。最近の基礎研究では、損傷部によってきた細胞がカメレオンのように環境に応じた変化を起こすこと、それをうまくコントロールすることが治療効果に結びつくこと、が明らかにされつつあります。

1. Okada et al (2018) Astrocyte reactivity and astrogliosis after spinal cord injury Neurosci Res 126 39–43.

福光秀文 岐阜薬科大学生体機能解析学大講座 分子生物学研究室 教授

平成10年 岐阜薬科大学大学院博士後期課程修了。創価大学生命科学研究所、ドイツマックスプランク生物物理化学研究所の博士研究員を経て、平成14年より岐阜薬科大学分子生物学研究室に所属、教育・研究に従事している(平成27年7月より現職)。この間一貫して、「神経栄養因子」をキーワードに神経発生と再生をテーマにした研究を行ってきた。近年、これまでの成果をベースにヒト歯髄細胞を用いた脊髄損傷治療を目指した基礎研究やmRNA前駆体の3´末端修飾の神経機能における役割解明、医学的応用を志向した研究を行っている。

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