脊髄損傷のはなしB:脊髄損傷の治療法開発 2018/11/24

さて、今回は治療戦略の話です。前回までにお話しさせていただいたように、脊髄の損傷部は多くの要因によって、軸索再生が阻まれます。

現在のところ、脊髄損傷によって失われた機能を回復させる根本治療法はありません。しかし、世界各国の研究者が脊髄損傷の治療を目指した研究を進めております。軸索を伸ばす作用を増強する方法、再生をはばむ作用を抑える方法、途絶えた情報の流れを中継する方法、などに大きく分けられます。

具体例としては、細胞移植では骨髄の中に含まれる細胞や京都大学・山中先生の発見された iPS 細胞由来の細胞などが期待されています。ここでいう骨髄とは骨の中に含まれる免疫系の組織で、中枢神経である脊髄とは全く別の組織です。

骨髄の細胞は「神経栄養因子」とよばれる物質を作って、細胞の外に分泌します。この物質は神経軸索が伸びるのを手助けします。前回、中枢神経では再生が起こりにくい理由のひとつとして、阻害する物質が多いことをお話ししましたが、それだけでなく軸索が伸びるのを手助けする物質も少ないことが知られています。骨髄由来細胞の移植はこれを補う戦略です。

iPS 細胞は体のいろいろな臓器・組織の細胞に分化できる細胞です。分化とは、細胞が増えて、成長していく過程において特定の機能や形を持つように変化することをいいます。iPS 細胞から神経細胞やグリア細胞のもとになる細胞を作って移植すると、途絶えた情報伝達経路の中継点(神経細胞)として、情報の漏洩を防ぎ、いち早く伝達するためのシステム(グリア細胞)として、働き機能の再生に寄与することが分かっています。

化学療法として、現在検討されているのは、神経栄養因子のような働きをする化合物の他、軸索再生の阻害的な環境を作っている細胞の機能を少し軌道修正することで、軸索が伸びやすい環境を整えるのに有効な化合物などがあります。

そのほかには、患者様の運動機能回復を運動療法や作業療法などで補助するなどの従来の方法に加えて、歩行を助ける装着型ロボットの活用や電気刺激を与える治療など、の積極的な介入が検討されています。

福光秀文 岐阜薬科大学生体機能解析学大講座 分子生物学研究室 教授

平成10年 岐阜薬科大学大学院博士後期課程修了。創価大学生命科学研究所、ドイツマックスプランク生物物理化学研究所の博士研究員を経て、平成14年より岐阜薬科大学分子生物学研究室に所属、教育・研究に従事している(平成27年7月より現職)。この間一貫して、「神経栄養因子」をキーワードに神経発生と再生をテーマにした研究を行ってきた。近年、これまでの成果をベースにヒト歯髄細胞を用いた脊髄損傷治療を目指した基礎研究やmRNA前駆体の3´末端修飾の神経機能における役割解明、医学的応用を志向した研究を行っている。

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