「お薬手帳」が災害時にあなたの命を救う 2019/4/10

近年、大きな災害が各地に甚大な被害をもたらしています。これまでに我が国は大規模災害を経験するたびに教訓として新たな災害に備えるための取り組みがなされてきました。

1891年(明治24年)に発生した濃尾地震は岐阜県を震源として7千人以上が亡くなり2万人近くが負傷しました。この地震は我が国の地震研究のきっかけとなる震災でした。そして昭和になり、敗戦からの復興が進み、高度経済成長の始まるころ、カテゴリー5のスーパー・タイフーン、伊勢湾台風が東海地方を襲い多くの犠牲者がでました。この災害をきっかけに災害対策基本法が制定され現在でも我が国の災害対策の基礎となる法制度となっています。また、今は無き富士山レーダーが設置されるきっかけとなった災害でもあります。

医療についても、我が国の災害医療は阪神淡路大震災を契機に大きく変化してきました。阪神淡路大震災の後、災害拠点病院が整備され、災害拠点病院には災害派遣医療チームDMATが組織されることとなりました。広域災害救急医療情報システムEMISが開発されたのも、この震災で初動対応の遅れが問題となったためです。

さて、未曾有の被害をもたらした東日本大震災では、災害関連死という言葉が注目されました。この中には、我が国の医療水準では平時においては死亡するようなことは想定されない事例がありました。例えば、いままで使用していた慢性疾患の薬が手に入らなかったため体調を崩され、亡くなった方もいらっしゃいます。

実際に東日本大震災では、普段使っている大事な薬が津波で流されたりして紛失し、多くの診療所や薬局も被災している中で、高台などで機能している病院へ多くの患者さんが薬を求めて来院されました。薬を求めて5〜6時間待ちの行列が発生したりしました。

この時に、すぐに薬をもらえる方とそうではない方がいらっしゃいました。「お薬手帳」でどんな薬をどのくらいの期間飲んでいたのか、どのような状況だったのかを把握できる方には、同じ薬または代わりとなる薬をすぐにお渡しすることができたのに対して、「心臓の赤い薬を朝1錠飲んでいる」という曖昧な情報しかない患者さんでは、すぐに薬をお渡しすることができず、精密な検査が必要であったり、場合によっては被災地外の病院を受診していただく必要もありました。このように「お薬手帳」を持っていることで、スムースにお薬をお渡しすることができた事例が多くありました。

「お薬手帳」は、これまでにどんな薬を飲んできたのかが記録されており、普段から薬の飲み合わせを医師や薬剤師がチェックしたりするのに非常に有用です。また、旅行の時や災害時に急に医療機関を受診するようなときにも、とても役に立つものです。皆さんの健康を守るため、普段から保険証などとともに「お薬手帳」を携帯するようにしましょう。


林秀樹  岐阜薬科大学 実践薬学大講座 実践社会薬学研究室 准教授

平成8年 名城大学薬学部卒業、平成10年 静岡県立大学大学院薬学研究科修士課程修了、平成20年博士(薬学)取得。平成10年より岐阜大学医学部附属病院薬剤師、平成17年より静岡県立大学薬学部講師、平成26年より現職。

臨床薬物動態学および薬理遺伝学研究に従事。医薬品の効果や副作用の個人差の原因を解明する臨床研究を行っている。

平成23年東日本大震災、平成28年熊本地震において薬剤師として被災地支援に従事。平成27年バヌアツ共和国サイクロン被害に対する国際緊急援助隊医療チームに薬剤師として参加。

日本医療薬学会指導薬剤師、日本臨床薬理学会指導薬剤師、日本災害医学会災害医療認定薬剤師、日本臨床薬理学会評議員、日本医薬品安全性学会評議員、日本災害医学会評議員、日本災害医療薬剤師学会理事、静岡県立大学薬学部客員准教授、岐阜大学医学部非常勤講師、朝日大学保健医療学部非常勤講師。

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