【地名の由来29】北区の「黒川」は「黒川さん」から 2013/2/24

庄内川の水を引くためにつくられた黒川樋門

名古屋城の北側には、まるで城を囲むように矢田川と庄内川が左回りに流れています。家康が旧那古野城の立地に注目し、ここに名古屋城をつくろうと考えたのは、この川が敵からの攻撃を防ぐ自然の防波堤になっていると考えたからでした。 

その後藩主はその庄内川の水を名古屋城の内堀に引きこむ用水を開削することになります。寛文3年(1663)のことです。庄内川から名古屋城に至る用水は「御用水」と呼ばれ、特別の管轄に置かれていました。そのスタート地点の地名が「辻村」だったので、「辻村用水」とも呼ばれていました。

その水路は辻村・志賀村・田幡村の南を経て御深井(おふけ)御庭の東北隅から城内に入り、さらに堀川に通じていました。

堀川は福島正則が築いたもので、この川の舟運を通じて名古屋の経済は大いに発展したのです。堀川には「堀川七橋」と呼ばれる七つの主要な橋があるのですが、その一つ「納屋橋」には福島家の家紋「中貫十文字」が刻まれています。

今はこの御用水はなく、明治に入って御用水に平行して開削された「黒川」が散策路として整備されています。名古屋の大都会の中に1.5キロにわたって続く川沿いの道はまるで都会の中のオアシスです。

実はこの「黒川」という地名は、この用水建設に貢献した愛知県土木課の黒川治愿(はるよし)技師の名前によったものです。日本では個人名が地名になるということは稀有と言ってもよく、せいぜい江戸時代の新田開発された土地に開発者の名をつける程度であったのです。

一般的にこの種の工事に貢献したとすると、莫大な額の資金援助したとか、行政的に貢献した人の名前が浮かびますが、ここでは技師の名前から用水名をつけたというのです。詳しくはわかりませんが、かなり特殊な技術をもってこの工事の完成に貢献したのに違いありません。

地下鉄もしくは名鉄の上飯田駅から北に少し行くと「御用水跡街園散策路」の入り口に出ます。その少し上流の地点に写真のような黒川樋門が見えます。この水門は庄内川から水を引くためにつくられたもので、今のものは昭和55年(1980)に復元されたものです。

桜が満開の時に、この黒川の散策路を歩いてみることをお奨めします。

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2013/2/24

プロフィール

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ノンフィクション作家

1945年長野県松本市生まれ。東京教育大学(現筑波大学)、同大学院博士課程修了。筑波大学教授、理事・副学長を務めるも、退職と同時にノンフィクション作家に転身。

柳田国男研究をベースに、学問の狭い枠を超えた自由な発想で地名論を展開。最近出した『名古屋 地名の由来を歩く』(ベスト新書)、『地名に隠された「東京津波」』(講談社+α新書)はそれぞれご当地でベストセラーに。新著『名古屋「駅名」の謎』が好評発売中。

その他、「地名を歩く」シリーズでは「京都」「東京・江戸」「奈良」編、「駅名の謎」シリーズでは「大阪」「京都奈良」「東京」がある。テレビ・ラジオなどでも活躍。博士(教育学)。

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