高薬価:その背景は? 2019/6/30

一般に医療用医薬品の開発・販売は、営利目的の製薬企業が担っており、自動車や家電、食品などと同様に研究開発を行い、原材料を加工製造して、一定の利益を含んだ売価(薬価)で販売し、収益を得て企業経営を行っています。他業種との大きな違いは、薬価は国が決定しているところです。このとき、闇雲に低い薬価を設定すると、製薬企業の経営は成り立ちません。高付加価値製品である医薬品は、資源の乏しい我が国において、国益を担う産業の1つと考えられており、福祉財政とともに製薬産業の育成も考慮して薬価が設定されています。

多くの新薬では、研究開発費は数百億円以上要すると言われ、その成功確率は1/30,000ともいわれています。このような開発リスクと投資を凌駕する売上が得られないと、新薬の開発は進みません。特に販売総量が少ない、例えば投与期間が短い場合や患者数が少ない場合には、一定の売り上げを確保するために相対的に薬価が高く設定されてしまいます。

医薬品開発(厚生労働省 医薬品産業強化総合戦略資料 改変)

その対極にあるのはジェネリック医薬品です。こちらは数億円程度の投資で開発できますから、薬価も安く設定されており、いわゆる薄利多売のビジネスモデルに位置付けられます。

医療用医薬品は国民の健康に直結する製品であり、高い公共性と倫理性が要求されますが、ビジネスである以上、より開発失敗リスクが少なく、競合が少なく、高薬価でも許容される疾患領域への開発が注力されています。近年ではそれが、患者数の比較的少なく重篤な疾患である、がん領域や希少疾患になってきています。

仮に年間投与患者数が100名の疾患を1回で治療できる新薬が100億円の開発費を掛けて生み出されたとします。この開発費を1年で回収しようとすれば薬価は1億円、5年で回収しようとすれば2,000万円です。開発費を一定期間で回収できなければ、そのような医薬品は開発されません。販売総量が少ないと予想される医薬品は、高薬価で無ければ生まれないのです。

高額医療用医薬品が生まれる背景を製薬ビジネスの観点から簡単に書きました。もちろん、その他の要因も関係しています。しかし、現実に超高薬価医薬品は生み出されています。

最近、米国ではある希少疾患に対して1回投与で完治させる新薬が承認され、2億円を超える薬価で発売されはじめました。そして、この医薬品は日本でも現在承認申請中になっています。

今後も増加するこのような高額医療用医薬品に対して、どうしていくのが良いのか国民的な議論が必要になっていると考えられます。

塚本桂 岐阜薬科大学 実践薬学大講座 グローバルレギュラトリーサイエンス研究室 教授

1989年岐阜薬科大学卒業後、一製薬企業において、一貫して基礎薬理研究および開発研究に従事。

この間、岐阜薬科大学にて薬学博士を取得し、2003年に大分医科大学、2004-6年にベルギー・ルーバンカソリック大学に留学(膵B細胞分子生理学研究に従事)。

2013年12月、25年間の製薬企業勤務に別れを告げ、岐阜薬科大学グローバル・レギュラトリー・サイエンス寄附講座講座特任教授に就任。

2018年4月より現職。企業経験を生かしたレギュラトリーサイエンス研究(医薬品開発の効率化、規制の影響などを多角的に評価)を実施中。家族、友人、サイエンスとイタリアン・ヒストリックカーをこよなく愛する自由人。

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