気功治療への道案内/五日目 2019/7/1

◆経絡について

「先生、前回、経絡の名前は教えてもらったんですが、私、経絡については何も知らないもんですから、概略的な範囲で構いませんので、少し教えて頂けませんでしょうか?」

座布団に座ると同時に佳与が口を開いた。

青々と色づきだしている庭の紫陽花が目に飛び込んで来る。私は、お茶を一服飲んでから佳与を向いて話し出した。

「気の流れるルートとしての経絡は、全身を一つの輪のようにして巡っているんですが、人間の形は円形でも球形でも有りませんから、手に行ったり足に行ったりしながら、丁度、あやとりのように複雑な形になっているんですよ。」

「すると、輪になっている紐を、左右の首や腋の下、股のところで狭めてきて、人間の形にしている、そんな感じですか?」と、佳与が言うと、

「その人間の形を立体にして、主に体表面で手足の日の当たるところを通っている経絡を陽の経絡とし、体内や手足の影になるところを通っている経絡を陰の経絡と呼んでいるんですよね?」と、茉奈が補足した。

「そしてね、陽の経絡は、主に頭部や顔面部とつながっていて、手と足にそれぞれ三本ずつのルートがあり、陰の経絡は、主に胴体内の臓器とつながっていて、これも手に三本、足に三本の計六本のルートがあるんですよ。」

そう言って、私はホワイトボードに次のように記した。

--------------------------------------------------------
 陰 陽
手3 3
足3 3
--------------------------------------------------------

「それで、沈めて診る陰の脈が六部、そっと触れて診る陽の脈が六部あるのは、解りました。そうすると、肺、脾、心包、心、肝、腎の陰の脉の六部には手の三本と足の三本の陰の経絡が含まれているということになりますよね?その、肺、脾、心包などが何処を流れているのか教えて下さいませんでしょうか。」佳与は真剣だった。

「確かに、肺が弱いとか肝が弱いとかと言っても、その肺経や肝経がどの辺りを通っているのかが頭に入っている必要はあるし、特に、診察の段階で、何処に症状が有り、それがどの経絡のルートに現れているのかを判断して、脈で確かめるという作業は大切な診察法になりますからね。まずは陰の経絡から覚えて下さい。」

そういって、私は、再びホワイトボードに次のように記した。

--------------------------------------------------------
●手の陰の経絡
 母指側から
 肺
 心包
 心

●足の陰の経絡
 前側から
 脾
 肝
 腎
--------------------------------------------------------

佳与はそれをノートに写し、首を捻りながら言った。

「うーん、頭が混乱しそう。脈を診る時は〔肺脾心包、心肝腎〕だし、五行だと〔肝心脾肺腎〕だし…、そして、手にある経絡は〔肺と心包と心〕で、足にあるのが〔脾、肝、腎〕って、法則性がないみたいだし、丸々覚える以外にはないのかなぁ?」

「そうよね、知らない言葉は出て来るし、覚えないと始まらないし…、頑張りましょ!」と、茉奈が佳与に顔を向けて、胸の前で右手で拳を作った。

◆手の陰の経絡の流注

「では、手の陰の経絡の大まかな流れも覚えて下さいね。」
「それが大切なんですよね。」
私の言葉に茉奈は素直に反応した。
「ですよね。」
と、佳与は小さく呟いた。

私は話を進めた。
「そうですねぇ、バンザイをするような感じで、掌を前に向けて両手を斜め上に挙げてみて下さい。その掌側を通る経絡が手の陰の経絡で、そこを三本の経絡が流れているんです。鎖骨の下を外に向かって撫でていき、肩の大きな骨にぶつかったところの凹みと母指球から母指を結ぶラインが肺経です。」

二人は片手を斜め上に挙げ、私が言ったところを反対の手で場所を確かめながら撫でていた。

「先生、経絡について書いている本などを見ると、一本の線というか、ツボを結んだ線で描かれているんですが…?」と、茉奈が訊いた。

「経絡というのは気の流れるルートなので、皮膚上の細い線を流れている訳ではないんですよ。例えば、前腕を輪切りにしてみます。」
「CTスキャナみたいにですね?」と、佳与が言う。
「その断面を橈骨と尺骨で結ぶラインで切ってみると、掌側と手の甲側に分かれますよね。その掌側が陰になり、それを三等分すると、母指側から肺経、心包経、心経となり、それを腕全体に延ばした立体がそれぞれの経絡のルートということになるんですよ。」

なるほどといった感じで二人は首を盾に振っていた。

「気功をしている時、手の中を温かいような、ジワーッとした感じが動きますが、その感覚を掌側と手の甲側に分けるだけじゃなく、今の先生のお話のように、掌側の感覚を三つに分けていくと、それが肺経とか心経などになるんですね?」

茉奈は自分の気功体験から経絡を理解したようだった。

「次に、腋の下の真ん中、丁度、体温計を測るところと小指球から小指を結んだラインが心経になります。」

私の言葉に併せて、二人はまた手で撫でながら確かめていた。

「そして、その肺経と心経の間を心包経が流れていて、それらがそのまま胸の中の肺臓や心臓とつながっているんです。 」

すると、突然、佳与が立ち上がり、鳥のように両手を体の横でゆっくり上げ下げしながら言った。

「先生、こうやって、胸の中と親指側、中指側、小指側と、掌側を三つに分けて気を通す練習をしていけば、手の陰の経絡を体感できるようになりますよね!」と、顔を輝かせてみせた。

「そうですね。そうやって、経絡が気の通る立体的なルートだということを体感していくことも大切な練習になりますよね。」

そう言って、私はお茶を飲みながら目を細めたのである。

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プロフィール

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鍼灸師・気功法講師。

和歌山県出身。日本福祉大卒。名古屋市内に鍼灸院「和気」を開院(2015年、閉院)。林茂美師に師事し気功を習得。愛知県名古屋盲学校専攻科非常勤講師(2016年退職)

現在は名鉄カルチャースクールにて講師活動のほか、名古屋市内にて各種の気功講座、気功教室を担当。

また、2013年より京都、妙心寺内大心院にて気功講習会を開始。現在に至る。

趣味は、陶芸、京都・奈良ウォークなど。

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