健康情報や美容情報の氾濫に飲み込まれないようにするには 2019/11/10

現在、シミ(肝斑に限る)用の医薬品、化粧品的なシミ・シワ・肌荒れには薬用化粧品(医薬部外品)、健康や肌状態を訴求した特定保健用食品、そして、有効性を示す科学論文を引用することで効能訴求する機能性表示食品など、健康と美容を訴求する商品が多数市場に出回っています。一方で、テレビの健康・美容番組、通販サイト、テレビショッピング、健康・美容雑誌などで、多くの一見科学的に語られている情報が多数氾濫し、一般の消費者は何を信じて良いのか判断するのが大変難しくなっています。

もっとも注意が必要なのは、売り手・情報の出し手による“確証バイアス”です。意識的かどうかは別にして、情報を出す側は自分にとって都合の良いデータを選んで、科学的にも妥当であるかのような説明をしがちです。

例えば、過去10年間の高齢者交通事故件数の増加データのみを示して「高齢者の運転免許は制限した方が良い」という考えを説明する例を考えましょう。すぐに納得してしまいがちですが、良く考えると「人口に占める高齢者の割合・総数が多いから結果的に交通事故件数も増える」という当然の可能性を考える必要があります。真偽のほどは現状分かりませんが、因果関係の結論を出すには、例えば「高齢者と若齢者の免許取得者数あたり事故率の比較」や「免許取得者の年齢別の運転時間あたりの事故率」などのデータが必要です。

横断的研究と縦断的研究

もうひとつは、例えば30歳と80歳の人の身長の平均は、80歳の人の方が5 cm低かったというデータから、50年間で身長は加齢とともに平均5 cm低くなるという仮説はどうでしょう。このような比較研究は横断的研究といいますが、この場合は、世代間身長差が内在しているので、本来、30歳時の身長を測定し、50年後に追跡調査により同じ母集団の身長を測定する必要があるはずです(縦断的研究)。美と健康に関するデータでは圧倒的に横断的研究が多いので、項目によっては、どのような比較をしているのか注意が必要です。

さらに重要な点は、二つの事象が因果関係を示すものか、単なる相関関係なのかに注意を払うことです。たとえば、過去10年間の高齢者数の推移とスマートフォンの販売数推移はよく似た右肩上がりのグラフになり、両者には一見相関関係があるような図を描けますが、高齢者が増えたからスマートフォンが良く売れたという因果関係はないはずです。このように、単なる相関関係を因果関係と勘違いさせる情報がたくさん出回っています。

健康と美容を訴求する商品のなかで、少なくとも医薬品、医薬部外品、特定保健用食品で近年承認されたものは、データに基づいた効能表現となっていますが、機能性表示食品は採用している論文の質によります。不明な点は、医師、薬剤師、識者などの助言を仰ぐのも一つです。根拠なく、「XXを食べるとXXに良い」といった単純なフレーズを信じないで、一度自分なりに立ち止まって考えてみることをお勧めします。

 次回からは、話を戻して、全身の老化と肌の老化、健康と肌の関係などについてのお話をする予定です。

井上 紳太郎 岐阜薬科大学 香粧品健康学講座 特任教授

昭和52年大阪大学大学院修士課程修了。
同年鐘紡株式会社入社、薬品研究所、生化学研究所を経て、平成12年カネボウ滑礎科学研究所副所長、漢方ヘルスケア研究所副所長。
平成16年より潟Jネボウ化粧品基盤技術研究所長、価値創成研究所長、スキンケア研究所長を歴任し、平成21年同執行役員。同時に花王潟rューティーケア研究センター副センター長および総合美容技術研究所長を兼務。
退社後、平成28年から岐阜薬科大学香粧品健康学講座特任教授として「美と健康」に関する研究と教育に従事。日本病態プロテアーゼ学会理事、日本白斑学会理事。

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