信長ゆかりの名刀「あざ丸」と「蜘蛛切丸」が熱田神宮宝物館で同時展示 2019/7/16

熱田神宮神楽殿前(実は当時の本殿の前)で戦勝祈願をする信長。名古屋市による信長攻路

さて、今回は桶狭間合戦の外伝的なお話を。永禄3年5月19日(ユリウス暦1560年6月12日)にあった桶狭間合戦の当日昼頃、信長が善照寺砦まで来たのを見て、漆山から高根山へと撤退する今川義元軍を逃すまじと、三百ほどの手勢で攻撃を仕掛けたのが、佐々正次と千秋季忠(すえただ)でした。善照寺砦に居る信長、高根山の山頂に居る義元の双方からよく見えるところ(おそらく名鉄左京山駅の東のあたり)で戦って、ともに討ち死にしました。これは「義元は撤退中だった」という桶狭間合戦の新説がベースのお話です。この時死んだ千秋季忠は熱田神宮の大宮司職でした。でも熱田の大宮司が戦で死んだというのにはちょっと違和感が。前線の中島砦にいたということは、信長が戦勝祈願したとされる午前8時頃には、熱田神宮にいなかったということになりますし。

善照寺砦から合戦場所方面を見る。正面の高速道路上の山が義元のいた高根山

熱田神宮のトップである大宮司という職ですが、これは祭祀と神社行政の統括者で、神宮創建時(いつかははっきりわかりません)から尾張氏の一族が代々引き継いでいました。尾張氏というのは大和朝廷が全国制覇する以前からこの地を治めていたとされる、古代から続く尾張の豪族です。平安時代の末期(12世紀初め)に大宮司の尾張員職(かずもと)は大和政権の尾張国目代であった藤原季兼(すえかね)に娘を嫁がせ、藤原季範(すえのり)が生まれましたが、この季範はその後大宮司を継ぎ、以後、その子孫の藤原氏が大宮司となりました。季範は尾張員職の孫にあたるという話もありますが、そのあたりはよくはわかりません。

ちなみに季範の娘は源義朝と結婚し、当時は通い婚が普通でしたので、妻が住んでいた熱田において生まれたのがご存知、源頼朝です。鎌倉幕府を開いた頼朝はなんと熱田の生まれなんですね。その場所には今、誓願寺(せいがんじ・熱田区白鳥2-10-12)があります。

このあたりで頼朝が生まれたとされる誓願寺。寺は信秀が創建。家康が熱田で人質時代にこの寺の妙光尼に養育されたことで、今も葵の紋を掲げる

季範を祖とする一族は野田、星野、千秋などの名字を名乗る家に分かれていき、信長の時代はそのうち千秋家が大宮司職にありました。また大宮司は武士団を形成していたようで、国司をしのぐ力を持っていたともいわれています。戦国期になると神官というより武士そのものであったようです。そのため信長の父信秀が行った1547年の美濃攻めには、桶狭間で戦士した千秋季忠の父季光が帯同し、大敗の中で戦死しています。その子息の季忠が今度は信長が行った桶狭間合戦で戦死したため、信長は季忠の子の季信(信の字の偏諱を受けているかも)に対し、現在の天白区野並など3箇所の領地を与え、武士ではなく大宮司職を全うするように仕向けました。その後千秋家は代々続き、墓地は今も野並にあります。

明治維新の後は千秋家は熱田神宮の大宮司ではなくなりましたが、昨年(2018年)9月27日に熱田神宮の権宮司だった千秋季頼(頼の正式な漢字は旁のおおがい部分を刀の下に貝と書く)氏が大宮司に就任したというニュースがありました。詳細は知りませんが氏名から見る限り、多分この方は千秋家の方ではないかと思います。

千秋家の墓地は地下鉄野並駅の北東で、一段高まった相生山緑地の西側にある

さて、熱田神宮には宝物館がありますが、こちらでは所蔵されている貴重な品々が入れ替わりながら展示されています。そして今年2019年の8月2日から27日まで展示されるのが、信長公記にも登場するあざ丸という刀です。平安末期から鎌倉初期の武将「平景清」が所持していたとされる名刀で、彼の顔のあざが刃紋に移った刀とされ、また景清の眼病伝説(自ら目をくり抜いたとか)を祟りとして伝えており、所持するものは目を患うとのこと。信長公記には信秀の美濃攻めで千秋季光はこの刀を差していて討ち死にし、それを美濃方の陰山一景が差していたら両目を射つぶされ、やがて丹羽長秀が所有したところ眼病を患うようになったので熱田へ奉納した、という話が載っています。それ以来、熱田神宮に収蔵されているわけです。

信長が寄進した信長塀は有名だが、その手前にあるこの石は、信長が楼門形式から八脚門に作り変えたという海蔵門(戦前に国宝指定)の礎石。空襲によって焼失

ちなみに平景清は各地に様々な伝説があり、熱田に来たおりには遊女との間に子をもうけたとか、大宮司の娘との間に二人の子をもうけたとか。景清屋敷という場所も三ヶ所あったようで、その一つとされる場所にあるのが景清社です。名古屋市の建てた看板には『謡曲「景清」では「遊女と相馴れ一人の子を設く」とうたわれ、後年眼病で失明したという伝説から、眼病に霊験があるとして信仰が篤い』と書かれています。

景清社があるのは熱田区神戸町402。あつた蓬莱軒本店の北、100m弱

さてもう一振り、信長関連の刀が熱田宝物館にはあります。それが蜘蛛切丸(くもきりまる)というもの。宝物殿の資料によればこの脇指は、『清和源氏重代の名刀』ともいわれ、信長が永禄三年(1560年)に熱田神宮に奉納したと『張州雑志』に記されているとのこと。また号の由来は、杉の木の下で持ち主が眠っていた時に毒蜘蛛に襲われたが、この刀が独りでに抜け出て毒蜘蛛を斬りつけたという伝承によるとのことです。永禄三年といえば桶狭間合戦の年。ということはその時に左文字の名刀と一緒に義元から分捕ったものかもしれません。信長公記の天理本では左文字は出てこず、郷(義弘)の名刀を分捕ったとされていますので、他にもいろいろ手に入れたのでしょう。そのうちの一本かもしれませんね。この二振りが同時に展示されることは稀ですので、ぜひ熱田神宮へおでかけください。8月27日まではお盆の間も無休だそうです。

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1956年 名古屋市守山区(当時は守山市)生まれ。バンド活動から自動車雑誌、タウン雑誌などの編集を経て、出版編集・web制作を生業とする株式会社デイズを創業。

代表を務めつつ、自動車ライターとして、中日スポーツなどで試乗記を10数年間、毎週執筆。現在は「モーターデイズ」というwebサイトを中心に活動中。

今年5月には、長年の取材をまとめた「信長公記で追う桶狭間への道」を出版。織田信長誕生から桶狭間の合戦までの26年の人生、その年齢ごとのゆかりの地をクルマでたどる歴史観光ガイドムック(雑誌タイプの本)で、歴史ライターとしても活動を始めた。

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