新しい糖尿病治療薬:経口GLP-1作動薬 2019/10/30

第1回記事:新しい糖尿病治療薬
第2回記事:新しい糖尿病治療薬:グリフロジン製剤

筆者が薬学生だった頃、「タンパク質のような高分子は消化管から吸収されない」と習いました。私たちの消化管は口から摂取した様々なタンパク質などの高分子を、分解・消化して、サイズの小さいペプチドやアミノ酸として吸収します。

GLP-1は食後に分泌される消化管ホルモンであり、血糖の量に応じてすい臓でのインスリン分泌を増強させ、また満腹中枢を刺激して満腹感を与えます(その他の作用も持ち合わせます)。そのため、低血糖を起こしにくく、糖尿病の大敵である肥満も抑制することから、新しい糖尿病治療薬として注目されています。

私たちの体の中で作られるGLP-1は、体内にある酵素で速やかに切断され、薬理活性を失います。このホルモンが分泌されて分解されるまでは90秒ほどと言われていますので、このままでは点滴で投与しない限り糖尿病治療には使えません。そこで研究者たちは、酵素に切れにくいGLP-1の様な作用を持つタンパク質を生み出し(GLP-1作動薬)、治療に使えるようにしました。しかし、冒頭のように消化管からそのまま吸収させるには無理がありますので、注射剤として登場したのです。

いくらGLP-1の治療効果が高いと言われても、いきなり「注射」それもインスリンと同じように患者自らがペン型の注射器を使って「自己注射」を強いられることは、患者にとってハードルが高いもの。何とか治療コンプライアンスを向上させることはできないものかと、研究者たちはさらに工夫を重ねました。

今回登場した経口GLP-1作動薬は、分解されにくいGLP-1様タンパク質であるセマグルチドに、消化管からの吸収を補助する物質を加えて錠剤にしたもので、1日1回服用することで血糖降下作用が得られるものです。我が国では7月に承認申請が行われ、現在審査中ですが、米国や欧州では既に承認され臨床現場で使われており、治療効果を上げているそうです。新しい治療選択肢が広がることで、様々な糖尿病の病態に対応した有効な治療が期待されています。

ところで、注射や錠剤に頼らず、GLP-1を増やす方法があることをご存知ですか?

ある研究者によると、咀嚼によりGLP-1の分泌量が増えるとのこと。このシリーズ1回目にも書きましたが、糖尿病は摂取するエネルギー量と消費するエネルギー量のアンバランスが一因です。

運動とともに食生活を見直し、バランスの良い食事を、ゆっくりよく噛んで味わいながら頂き、昔から言われるように腹八分を心がけることが肝要なのでしょう。

早食いは決してお勧めできません。


塚本桂 岐阜薬科大学 実践薬学大講座 グローバルレギュラトリーサイエンス研究室 教授

1989年岐阜薬科大学卒業後、一製薬企業において、一貫して基礎薬理研究および開発研究に従事。

この間、岐阜薬科大学にて薬学博士を取得し、2003年に大分医科大学、2004-6年にベルギー・ルーバンカソリック大学に留学(膵B細胞分子生理学研究に従事)。

2013年12月、25年間の製薬企業勤務に別れを告げ、岐阜薬科大学グローバル・レギュラトリー・サイエンス寄附講座講座特任教授に就任。

2018年4月より現職。企業経験を生かしたレギュラトリーサイエンス研究(医薬品開発の効率化、規制の影響などを多角的に評価)を実施中。家族、友人、サイエンスとイタリアン・ヒストリックカーをこよなく愛する自由人。

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