食品の安全性を考えるB 〜食品添加物は悪者なのか?〜 2019/10/23

 今回も前回、前々回に引き続き、食品の安全性についてのお話です。今回は食品添加物について考えてみたいと思います。

前回記事『食品の安全性を考えるA 〜食品中に存在するリスクって何?〜

 またまた質問です。お店にソーセージを買いに来ました。皆さんは、図のA:保存料無添加の商品、B:保存料が添加されている商品、のどちらのソーセージを選びますか?この質問の答えについては、この記事の最後に議論したいと思います。

食中毒統計にはない最も身近なリスク因子

 前回、細菌類やウイルスが食品中に存在する代表的なリスク因子であることを、食中毒統計調査の結果を基にお話ししました。しかしもう一つ、最も身近なリスク因子の一つでありながら、食中毒統計の病因リストにはないものがあります。それはカビです。

 カビによる健康被害はカビの作るカビ毒が原因で起こります。中でも特に深刻なのが、コウジカビの一種が作るアフラトキシンと呼ばれるカビ毒です。アフラトキシンは非常に強力な発がん作用を持っています。化学物質の発がん性については世界保健機関(WHO)の所属機関である国際がん研究機構(IARC)で評価が行われており、その発がん性の強さは5段階に分けられていますが、アフラトキシンは最も強いグループ1(ヒトへの発がん性について十分な証拠がある)に分類されています。アフラトキシンの他にも、カビ毒には腎毒性を引き起こしたり、白血球数を減少させるもの、ホルモン系をかく乱するものなどがあります。

 このようなカビ毒をもつカビは、決して特殊なものではありません。身の回りの至る所に存在しています。皆さんの中にも、せっかく食べようと思っていた食品にカビが生えてしまって、食べられなくなってしまった経験がある方も多いと思います。その一方で、「お餅やパンなどにカビが生えても、カビの部分を取り除いて食べれば、特に腹痛など起こらなかったよ・・・。」という方もいるかもしれません。しかし一度カビが生えてしまうと、それを取り除くことは非常に難しいです。カビが生えている部分だけを取り除いても、目では見えない部分にもカビが存在している可能性が高いのです。また一般的にカビ毒は熱に強いため、加熱調理してもその健康被害を予防することはできません。多くの場合、カビ毒を摂取しても、すぐに嘔吐や下痢を起こすといった急性の症状を示しませんが、気づかずに摂取し続けると、後に深刻な症状を引き起こす可能性がありますので注意が必要です。したがって、このようなリスクを回避するためには、食品にカビを繁殖させないようにすることが極めて重要となってきます。

食品添加物は本当に「悪者」なのか?

 細菌類やウイルス、カビなどによる健康被害のリスクを回避するためには、まず何よりも食品を汚染させないことです。また汚染が起こる前に食べてしまえば、リスクは回避できます。しかし食品によっては、すぐに消費することが難しいものもあります。そういった食品の場合は、食べる前まで病原体を繁殖させないこと、すなわち保存状態が重要となってきます。食品の保存には、冷蔵庫内や冷凍庫内での低温保存が有効な手段の一つであることは、多くの方がご存じかと思いますが、それに加えて重要な役割を果たしているのが、保存料や防カビ剤などの食品添加物です。保存料や防カビ剤には、食品中で細菌類やカビ類を繁殖させない効果があります。ただ食品添加物というと、「体に悪いもの」、「がんを引き起こすもの」、「体に蓄積されて病気を引き起こすもの」など、悪いイメージをお持ちの方が多いかと思いますが、果たして本当にそうでしょうか?

 たしかに、食品添加物については、科学や制度が未熟であった時代に発がん性を持つ物が使われていた例もあり、これが悪いイメージの一因になっているのかもしれません。食品添加物は、毎日摂取する食品に使われるので、一生食べ続けても体に害を与えないものでなくてはなりません。このような観点から、わが国では食品添加物の安全性を、ラットやマウスなどを用いた様々な動物実験の結果を基に、国際機関が無害とした量(無毒性量)を参考にして、内閣府に設置された食品安全委員会で中立かつ公正に評価しています。通常は無毒性量の1/100量を毎日食べ続けても安全な量(一日摂取許容量)とし、この値を上限量として使用基準を定めています。また参考にする動物実験には、ラットやマウスの一生涯に相当する期間食べさせ続けて毒性を調べる試験や、発がん性を調べる試験、生殖機能に対する影響や赤ちゃんへの影響を調べる試験などがあり、様々な角度からの安全性を考慮して無毒性量が決定されています。このように現在は科学や制度も成熟しており、科学的に安全性が確認された上で使用されています。

保存料無添加のソーセージ、保存料が添加されているソーセージ、どっちが安全?

 もちろん食品添加物を摂取しなくてもよいのであれば、それに越したことはありません。したがって製造後、すぐに消費してしまうのであれば、保存料無添加の商品の方がいいでしょう。しかし加工食品などを開封してしばらく保存する場合は、細菌類やカビなどによる食品汚染リスクが伴います。その中には、人に対してもがんを誘発することが科学的に証明されているものもあるのです。冒頭でソーセージの選択に関する質問をしましたが、これは「安全性が確認された保存料によるリスクと、健康被害を起こすことが明確な細菌類やカビによるリスクのどちらを選択しますか?」という問題であるとも言えます。したがって、開封した加工食品などをしばらく保存しておくような場合には、保存料が入っている方が細菌類やカビなどによる食品汚染のリスクを低減し、健康被害を回避できる可能性が高いと言えます。

「賢い消費者」であるために・・・

 今回は3回シリーズで食の安全性についてお話してきました。「天然由来」という言葉は、「合成品」よりも安全であると思われがちですが、それはあくまで一部に定着したイメージであり、感情的な判断にすぎません。また天然由来であっても、健康被害を与えるものが身の回りにはたくさんあることも、これまでにお話ししてきました。

 「食品の安全性を考える@ 〜天然由来成分は本当に安全なのか?〜」の冒頭で、「天然着色料を使ったキャンディー、合成着色料を使ったキャンディー、のどちらのキャンディーを選びますか?」という質問をしましたが、これについては天然由来品、合成品に関わらず、安全性が科学的に確認されているものであれば、どちらを食しても安全性に問題はないということがお分かりいただけたと思います。また今回の冒頭で質問したように、保存料の添加の有無については、自分がその食品をどのくらいの期間で消費するのか、またどのように保存するのかを考えて適切な方を選択するべきだと思います。このような判断をすることが、「賢い消費者」であるための秘訣であろうと思います。

 ただこの判断は、一般の方にはなかなか難しいかもしれません。現在は、インターネットで検索すれば多くの情報を得ることができますが、残念ながら全てが正しい情報ではありません。センセーショナルに食品添加物の危険性を訴えるようなサイトも散見されますが、科学的な判断は正しい情報に基づいて行われなければなりません。食品の安全性に関わる情報は各公的機関から発信されていますので、皆さんも積極的に正しい情報を収集して、是非とも「賢い消費者」になっていただきたいと思います。

中西 剛(ナカニシ ツヨシ)
岐阜薬科大学 生命薬学大講座 衛生学研究室 教授

平成5年 大阪大学薬学部薬学科卒業。平成7年大阪大学大学院薬学研究科 博士 前期課程修了、平成10年同研究科 大阪大学大学院薬学研究科博士後期課程修了 博士(薬学)号取得
同年4月に 大阪大学大学院薬学研究科 毒性学分野 助手として着任、内分泌かく乱化学物質に関する研究に従事。
平成20年 岐阜薬科大学 衛生学研究室 准教授、平成30年より現職。

社会活動:
内閣府食品安全委員会 専門委員(令和元年10月より)
岐阜県環境影響評価審査会 委員

賞罰:
平成30年 日本薬学会学術振興賞 受賞、日本毒性学会日化協LRI賞 受賞 他

現在は、内分泌かく乱化学物質に関する研究に加え、化学物質によって誘発される生殖発生毒性、免疫毒性、脂質代謝異常、神経毒性などに関する分子メカニズムの解明や毒性試験法の開発などを行っている。

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本学は、美しい金華山と長良川などの自然に恵まれ、また歴史と文化の薫漂う岐阜市の北部に位置し、80有余年に及ぶ歴史の中で、建学の精神である「強く、正しく、明朗に」をモットーに、「人と環境に優しいグリーン・ファーマシー」を基本理念とした薬学教育を通じ、安心で安全な医療に貢献できる薬剤師や、人と環境にやさしい方法で薬を創ることのできる研究者や技術者を養成しています。

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