韓国の「酒礼」&日本の「酒道」 2014/1/2

「都市型社会」に変化してしまった日本では、「家が狭い」、「忙しくて料理作る暇がない」、「プライバシー(Privacy)を守りたい」、「人間関係の距離のとり方が近すぎる人は田舎者」等々の理由からゲストを「レストラン」でもてなすことが多く、せっかくのゲストでも家では「お茶菓子」程度で済ませるのが一般的なようです。

一方、他人への警戒心があまりなく、人懐っこいうえに比較的オープンな韓国人は知人をしょっちゅう自宅に招きます。いやいや、外出先から知り合ったばかりの人を一切予告なしにいきなり家まで連れてくるパターンもありますし、電話があまり普及していなかった時代には「近くまで来たので……」と言って突然来る訪問者も多かったです。

韓国が全体に貧しく、ご飯が十分に食べられる人よりも食べられない人の割合が多かった時代、少し豊かに暮らしている家の奥様は、いつ訪れるか分からない招かざるゲストのために「余分の食」や「お酒」を常に用意しておき、いつでも笑顔で迎えるのが美徳で、またそれが「良家の奥様の条件」でもありました。

「せっかくの御縁。リラックスした状況、ものを言いやすい雰囲気、自宅で好きな飲食を楽しみながら親密な関係を築くことは、人間関係において一体感を高め、より絆が深まるきっかけとなり、社会生活において将来的に利益をもたらす」などの緻密な理論や計算に基づいた振る舞いではない。

朝食を食べに、夕食を食べに、お酒を飲みに、毎日のように朝晩お客が頻繁に出入りする家。「来客をお腹いっぱい食べさせ帰らせる家は繁盛する」と言われる韓国人の意識構造は、貧しい人が多かった時代の村落共同体における「共存の知恵」と言おうか、「村型社会」のコミュニケーション(communication)の取り方と言おうか……

貧しかった時代のこのような美風良俗は、豊かになってきた昨今でも、来訪時間帯に構わず「お食事」をもてなすのが「良い御もてなし」とされ、特に男性客には「酒案床 주안상 ジュアンサン」(酒肴膳)を出す家庭がまだまだ多い〜♪

韓国・MBCのドラマ「太陽を抱く月」の一場面 (朝鮮時代)来客に出された「酒案床 주안상 ジュアンサン」(酒肴膳)

諸外国人の話からすると韓国は他国と比べ、「お酒好きな国」「お酒に甘い文化」のようです。世界保健機関(WHO)が188国を対象に調査した結果(2011年調査)、韓国のアルコール消費量は13位で、蒸留酒の摂取量は1位だったらしく、韓国人、自称「韓国ほど酒に寛大な国も珍しい」と言っている。

韓国では社会生活に「お酒は必須」という考えから飲酒はあまりにも日常に入り込みすぎていて、酒が飲めない男性は出世できない。飲み会の場を頻繁に設ける人ほど社会性に富んだ人と認識され、お酒に強い人を羨ましがる雰囲気。

嬉しくて一杯、悲しくて一杯。辛くて一杯、腹立って一杯。会って一杯、別れて一杯。生まれて一杯、死んで一杯。明月で一杯、雨降って一杯、暑くて一杯、寒くて一杯………とにかく、何かにつけて一杯。

ところで、「朴」は「抹茶」嫌いだけど「お酒」はもっと嫌い!!麦畑通るだけで酔っぱらってしまうからね〜

「朴」が韓国の国会に勤めていた頃、当時の経済界の大物「B議員」の女性秘書であった「崔さん」(朴より年上)が女性だけの食事会に連れていってくれた。同席していた人々にしきりに勧められ、注がれたビール一杯を「朴」は生まれて初めて飲んでしまったんだよ〜

頭痛が始まり手足が痺れ、席から立ち上がる際ぶら下っている明かりに頭をぶつけ、トイレまで足がふらふら……これは一体どういう事???ついに「崔さん」が拾ってくれたタクシーに乗せられ……(その後のことは覚えていない)……「着きましたよ」と言うドライバーさんの声に目が覚めたら「家」の前。

こんな「朴」なのですが、来日後日本人から

◆ 韓国では、焼酎は水で割ったりすることなくストレートで呑んでる?
◆ 韓国人は「ワンシャット☆one shot」(一気飲み)で、飲み会では「爆弾酒」(焼酎とビールなど様々な酒を混ぜた物)呑むの?
◆ 韓ドラで見たけど、目上の人の前ではなぜ顔を逸らしてお酒を飲みますか?
◆ 韓国では、女性はむやみに男の人にお酒を注がないと聞いたけど、本当でしょうか?

等々、韓国人の「お酒のマナー」についてよく尋ねられます。

「韓国人はお酒に強い人が多く、飲まない人にお酒を強要し、一旦飲み始めると限界まで飲み続け、ホロ酔い加減で喧嘩ッ早い」とのイメージが強いようですが、実は日本の「茶道」、韓国の「酒礼」ですので、韓国人の家庭に招かれ「お酒の御もてなし」を受ける際は、韓国の「酒礼」にお気をつけて下さいね〜

「女性だけの飲み会」 出典:韓国・中央日報

中国では「酒法」、日本では「酒道」、韓国では「酒礼」と表現します。朝鮮時代の「六礼」は、「冠礼」「婚礼」「葬礼」「祭礼」「賓礼」+「酒礼」。

◆「세종대왕 セジョンデワン 世宗大王」注1)時代の「향음주례 ヒャンウムジュレ ク飮酒禮」注2)には「主人は一つの杯を回しお客にお酒を勧め、杯を回す際は必ず洗う」と、「酬酌(杯を回すこと)」=「返杯」についての記述があり、「酬酌」は酒席の「総和」、「杯を洗うこと」は「衛生」の為であるとか。

◆ 自分が飲んだ杯で相手に酒を薦める「返杯」が礼儀で、注がれたら飲んで杯を相手に渡して酒を注ぐの繰り返しが基本なので、(グラスの大きさにもよりますが)「杯」の場合は基本的に一気飲みです。

◆ 故に、日本では相手のグラスのお酒が少なくなったら、足してあげるのが礼儀ですが、韓国では飲み干したグラスに注ぎます。グラスが空になるまでお酌をしてはいけない。(韓国では死者に奉げるお酒に継ぎ足しをする由来から継ぎ足し禁止との説もある。)

◆ また、年長者や目上の方の前では「吸煙」や「飲酒」を控えることが原則ですが、「タバコ」より「お酒」に関しては比較的緩く、年長者や目上の方と「対酌」(向かい合って酒をくみ交わすこと)する際には、両手で受け(呑むところを隠して呑む意味として)相手の視線を避け、体を少し横に向けて目立たないように呑みます。(顔を向かい合わせて呑むことは失礼)

「お酒は両手で受ける」
「相手の視線を避け、体を少し横に向けて顔をそらして呑む」

◆ 日本では、目上の人や年長者が目下の人や年少者に先にお酒を注ぐ「賜酒」ですが、韓国では相手に敬意を表す意味として年少者や目下の人から年長者や目上の人に先に「獻酒」をするのが礼儀。

◆ 酒を注ぐ順は座った順ではなく年齢順。

◆ 年長者が年少者に注ぐ際は片手を使っても構わないのですが、基本的には両手を使い注ぎます。5才前後の年齢差の人とは「対酌」できますが、親しくない限り必ず両手で注ぎ、両手で受けるのが礼儀。(敵には左手で注ぐと言われているので要注意。)

「お酒は両手で注ぐ」

◆ 左手を右手首または右腕に添えたり、胸に添えて注ぐのは、韓国の民族衣装「韓服」の袖丈が長かったので、袖が濡れないようにするためだったことに由来していると言われていますが、両手で注いだものと見なされます。

「左手を右手首または右腕に添えたり、胸に添えて注ぐ」

◆ 今時日本では、相手のグラスのお酒が減っているのに女性が注いで上げないと気が利かない女性と思われがちですが、韓国の家庭では男性客にお酒をもてなす際に、その家の家族の女性がお酒を注ぐのはタブー。(お酒を注ぐのは「기생 キセン (妓生)」(芸者)の役目だとか。

◆ 日本の「乾杯」の掛け声は、韓国では、「위하여 ウィハヨ」(〜の為に)

◆「自酌」(自分のお酒を自分で注ぐこと)は縁起が悪いとされる。

◆ また、韓国の「酒礼」では、「一不」一杯では雰囲気が壊れ、「三少」三杯では少し足りず、「五宜」五杯が適量で、「七過」七杯は飲み過ぎとの言葉があり、過飲を警戒しています。

■ でもでも、最近では「酬酌」(杯を回すこと)は、肝炎の伝染など非衛生的である観点から避けられる場合が多いです。時代の流れと共に外国からの飲酒文化の受容や国内の社会構造の変化により、男女が一緒にお酒を飲む際、女性が相手に酒を注いで上げるのが当たり前のようになってきています。

■ 数年前、韓国語関係者の「송년회 ソンニョンフェ 送年会(忘年会)」(韓国では年を忘れる会ではなく、年を送る会と言う)では、最高責任者が同席していることを意識し、「朴」よりう〜んと年下の若い女教師「某さん」に気配りのつもりで、わざわざお酒を注がなかったら、それに腹を立てた「某さん」から「お酒飲みたかったのに……まったく」と文句を言われ「朴」はショック!!!韓国社会すっかり変わってしまいましたね!!!(続 く)

注1)「世宗 세종대왕 セジョン」:(1397年〜1450年)朝鮮時代の第4代王。
「한글 ハングル」の創製を行ったことで知られ、在位期間中、科学∙経済∙国防∙芸術∙文化など全ての分野にわたり輝かしい成果を多く残し、偉大なる聖君として尊敬される人物。

儒教の理想とする王道政治を展開したことで、後年「海東の堯舜」と称され、世宗 + 大王(名君という意味)「世宗大王 세종대왕 セジョンデワン」と言われる。現在の韓国1万ウォン紙幣の肖像人物。

注2)「향음주례 ヒャンウムジュレ ク飮酒禮」:昔のシステム・用語などが難しくて「朴」もよく分からないけど、簡単に言えば、朝鮮時代に『국조오례의 (國朝五禮儀)』に記載され、勧められていた「郷村儀式」。

各地域で「竜門に登り出郷する人々の為に開くお別れパーティ」と言った方がいいかなあ 〜 。出郷の際、「ク校」(国立教育機関)で儒学を学ぶ学生達などが集まって、その地域の「年長者」で「人望の高い」「有識者」を主賓に迎え、宴会を開き、賓(出郷者)を見送る儀式。

世宗大王時代に国立教育機関の儒学生向けの教科目の一環として設けられ、「酒礼」を学ぶ、教育的な性格を帯びているものみたいですよ〜

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韓国ソウル出身。韓国国会事務局退職後、1988年来日。大学で高等学校教諭1種免許(国語)取得。大学院で日本文化専攻。

名古屋市の官公庁などの翻訳・通訳人として活躍後、大学や名古屋市内の生涯学習センターなどで「コリア文化」に関する講座を担当。

現在は愛知大学、中京大学、中日文化センター、愛知大学オープンカレッジなどで韓国語講師をつとめる。

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