<第33話>心に残る大関列伝(琴ケ浜編) 2015/12/16

今年は戦後70年にあたるわけですが、相撲界は敗戦直後の廃墟の中から立ち上がりました。その立役者として横綱千代の山、鏡里、栃錦、若乃花らがいますが、その名脇役として頑張った大関の存在を忘れることはできません。
まず挙げたいのが琴ケ浜、大内山です。

琴ケ浜は昭和2年10月10日生まれ、本名宇草貞雄。香川県観音寺市出身、二所ノ関部屋。敗戦直後の昭和20年秋、初土俵を踏みました。廃墟混乱の中で食べるものに事欠いた時代、よくぞ相撲界に入ったと感心させられました。
エピソードがあります。
力士の稽古は番付の逆順に始まります。序ノ口、序二段、三段目の順で始まるのですが、土俵はひとつしかありません。少しでも稽古を積んで、早く出世したい思いは共通なのですが、琴ケ浜はそれを実行するために毎晩、土俵のそばで就寝しました。
1年後の昭和21年に初代若乃花が入門しますが、彼も人一倍稽古に燃える男でした。この兄弟弟子は土俵のそばで寝起きし、午前2時から真っ先に土俵に上がり、互いに稽古に励んだ涙ぐましい逸話があります。
少しでも起きるのが遅くなると先輩が稽古を始め、夜が明けるころには関取衆も加わります。それだけに払暁の時間から土俵に上がって稽古を始めたと何度も聞かされました。

琴ケ浜は身長177センチ、体重117キロの恵まれた身体ではありませんでしたが、無類の稽古熱心さから生み出した足技で番付を上げていきました。特に左足を生かした内掛けは天下一品。技能賞5回(殊勲賞2回、敢闘賞1回)も当然と思われる名人芸でした。

中でも思い出されるのが当時関脇だった琴ケ浜が横綱栃錦を内掛けで破った一番です。昭和33年初場所、左四つのまま両者動かず、栃錦が再三右上手を探るのですが、腰を左右に振って取らせません。やっとの思いで栃錦が右上手にふれた瞬間、琴ケ浜のさっと飛ばした左内掛けが決まり、かけ倒しました。まさに伝家の宝刀、見事な勝利でした。

昭和33年初場所、鮮やかな内掛けで栃錦を破った琴ケ浜

この場所だけでも内掛けが4番記録されています。名人横綱と言われた栃錦が十分警戒していたにもかかわらず、土俵中央で尻から落ちた光景が今でも焼きついています。

翌春場所には13勝を挙げ、朝潮との優勝決定戦をも経験しています。
技能派、個性派と言われてすぐ頭に浮かぶのが琴ケ浜です。

戦前しつこい足技で鳴らし「タコ足の新海」と呼ばれた足技の名人がいましたが、それ以上ではなかったかと思います。
今日まで足技を得意とし内掛けで勝負を制した力士は魁傑、増位山らがいますが、琴ケ浜のそれは抜きん出た切れ味でした。

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プロフィール

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日本福祉大客員教授、元NHKアナウンサー・相撲ジャーナリスト

1930年、北九州市生まれ。早大卒業後、53年NHK入局。初任地は名古屋局で、自身初の大相撲実況は54年2月に金山体育館で行われた大相撲名古屋場所(当時は準本場所)。

NHK在職中は名古屋、福岡、大阪、東京と大相撲の本場所開催地の放送局に在籍。81年、大関貴ノ花引退の放送で思わず絶句。“泣きの杉山、泣かせの杉山”と異名をとる。相撲以外でも東京、メキシコ五輪をはじめプロ野球など各種のスポーツ実況を担当。

現在は日本福祉大生涯学習センター名誉センター長、客員教授。名古屋・栄の中日文化センター講座「大相撲の魅力を語る」で講師を務める。深い知識と豊富な経験を基に、講座で興味津々の話題を紹介してくれる。

著書に「大相撲この名勝負」「土俵の鬼三代」「兄弟横綱−若貴の心・技・体」「土俵のチンギス・ハーン 白鵬」「土俵の真実」などがある。

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