10時間57分もの旧形客車の旅が大盛況! 2016/5/8

去る4月23日(土)に運転された所要約11時間の旧形客車の旅

大井川鐵道は今年3月31日に、なんとも挑発的なタイトルのリリース文を出しました。そのタイトルは、

あなたは全行程を乗りきれるか?

ではじまります。なんのことだろうと思ったら、

電気機関車牽引・長距離鈍行列車ツアー!!
総乗車距離『223.2km』
総乗車時間『10時間57分』の旅に出よう


だそうです。使用するのは、大井川鐵道がいつもSL急行「かわね路号」に使用している旧形客車です。旧形客車というのは、ブルートレインなど新系列の客車ができる以前に造られた客車のことです。

かつて、蒸気機関車に牽引される客車といえば、茶色か青色の旧形客車が基本でした。いまや、そんな旧形客車に乗れるのは、ここ大井川鐵道のSL急行か、JR東日本の「SLレトロみなかみ」など、それに津軽鉄道のストーブ列車くらいとなっています。

そんな貴重な旧形客車に、延々11時間弱も乗り続けるというのですから、乗るのがよほど好きでなければ、冗談じゃない! と思いますよね。

でも、蓋を開けてみると、なんと募集人員80名に対して3倍以上の申込みがあったそうです。そのため、参加者は抽選で決めることになったとのこと。どこがそれほど魅力なのでしょうか、その点を探ってみました。

途中の駅でホームに降りたりする、あわてないのんびり旅

今回走る大井川鐵道の新金谷〜千頭間は、37.2kmしかありません。所要時間も普通列車で1時間強です。どうやって223.2km、10時間57分も? と思ったら、この区間を一日に3往復もするのでした。37.2km×3往復=223.2kmですから、計算が合います。

さらに、急がない旅なので、途中駅でのんびり停車しては対向列車を待ちます。折り返しとなる新金谷駅や千頭駅では、折り返し時間をしっかりととって、駅前を歩いたり飲食物を調達したりします。

まさに、リリース文のタイトルのとおり「長距離鈍行列車ツアー」なわけです。その時刻は次の通りでした。

1往復目 新金谷09:48→11:14千頭11:55→13:18新金谷
2往復目 新金谷13:39→15:17千頭15:38→17:00新金谷
3往復目 新金谷17:30→18:51千頭19:27→20:45新金谷


1往復目の新金谷9:48発から、3往復目の20:45着まで、所要10時間57分というわけですね。3往復目の後半は、日が暮れて夜行列車になります。旧形客車の夜行列車は、いまやここ大井川鐵道で年に何度かしか味わえない貴重なものです。

沿線は、ちょうど茶畑の新緑がきれいで、あたりの里山と大井川は山紫水明を地でいくような光景を見せてくれます。筆者はこれまでに四季折々の大井川鐵道に行っていますが、その中でももっとも沿線風景が好きな季節です。それだけに、どの座席も窓を開けています。気持ちよい風を受けての汽車旅は、さぞ快適なことでしょう。

沿線では、たぬきさんもお見送り…神尾駅にて

ところで、旧形客車はボックスシートと呼ばれる4人向かい合わせの座席です。1両の定員は車種によって違いますが、概ね80名です。

今回、電気機関車が客車4両を牽引していますが、そのうちの1両は荷物車も兼ねた合造車と呼ばれるタイプで、客室は全長のおおよそ半分です。とすると、座席定員は約280名になるわけですが、募集人員は前述のとおり80名です。

つまり、座席定員よりかなり少ない人数での乗車ですから、4人掛けボックスシートに2名程度の乗客で、車内はゆったりしています。

のんびり景色を楽しみ、飲んだり食べたりしながら、駅で停まったらホームを散歩…と、まる一日の汽車旅を満喫できるわけです。

片道運賃1,720円のところを3往復して、参加費は12,000円です。運賃からすると割高に感じますが、約11時間ものあいだ空気も景色も良いところでのんびりゆったりできるとあれば、決して高くはないでしょう。実際、そのように思って、募集定員の3倍を超える人たちが申し込んだものと思います。

山中にある神尾駅では、ホームのたぬきさんも羨ましそうに通過する客車列車を見送っていました。筆者も、たぬきとともに、羨ましく見送っていました。この人気をうけて、このツアーが今後も繰り返し企画されることを期待したいところです。

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(有)鉄道フォーラム 代表取締役

1958年愛知県犬山市生まれ。大学卒業後に10年のサラリーマン生活を経て、当時話題だったパソコン通信NIFTY-Serveで鉄道フォーラムの運営をするために脱サラ。1998年に(有)鉄道フォーラムを設立。2007年にニフティ(株)がフォーラムサービスから撤退した際に、独自サーバを立ち上げて鉄道フォーラムのサービスを継続中。

一方、鉄道写真の撮影や執筆なども行い、「日本の“珍々”踏切」(2005.2 東邦出版刊)、「鉄道名所の事典」(2012.12 東京堂出版刊)、「トワイライトエクスプレス」食堂車ダイナープレヤデスの輝き−栄光の軌跡と最終列車の記録−(2015.9 創元社刊)など著書多数。

当「達人に訊け!」をまとめた書「東海鉄人散歩」(2018.7)が、中日新聞社から刊行された。

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