達人に訊け!
【くすりの匙加減(6)】くすりの未来 2015/8/30
おくすりには用法、用量が定められているのはご存知ですよね(【知っておきたい薬の知識 (2)薬の正しい使い方】をご参照ください)。
1日○回、1回○錠、大人は○錠で、子供は△錠など。年齢などに応じてくすりの量は決められています。
しかし、男性と女性、痩せた人と太った人、肝臓の悪い人、腎臓の悪い人など、同じおくすりを使う人でも個々の患者の背景は大きく異なります。腎機能や肝機能に応じたくすりの量の調節はすでに行われていますが、遺伝的背景が異なることもくすりの効き方に大きな影響を与えます。
患者個々の遺伝子情報を利用し、くすりの匙加減を行う試みはすでに一部のくすりで始められています。例えば、ある抗がん剤では特定の遺伝子が変異した患者にしか効果を示さないことがすでに確かめられています。
したがって、その抗がん剤は、遺伝子検査を行い、その遺伝子の変異が確認された患者にのみ使用されることになります。また、ある結核薬はその代謝に関わる遺伝子の検査を行い、投与量が決定されます。
このように、従来のくすりの使い方とは異なり、効かない患者には与えない、必要な患者にはよりくすりを与えて効果を得る、という選択は、有効性を高めると共に、医療費の効果的利用という観点からも極めて高い意義があります。
しかし、このような実例はほんの一部。さらに研究を進め、現場医療における医療の個別化、厳密なくすりの匙加減に挑戦していく必要があります。
手前味噌になりますが、私の研究室では、隣接する岐阜大学医学部附属病院の薬剤部に所属する病院薬剤師、複数の医局の医師と連携し、遺伝子情報や患者状態に応じたくすりの量の調節に関する研究を行っています。研究は道半ばですが、医師、薬剤師、研究室の学生と共に研究を推進し、ほどよい『くすりの匙加減』を見出し、患者の治療に貢献していきたいと考えています。
2ヶ月6回の執筆はここで終了しますが、引き続き皆様には、薬剤師、薬学研究者、岐阜薬科大学にエールをお送りいただきますよう宜しくお願いします。
岐阜薬科大学薬学部卒業。名古屋大学大学院医学系研究科修了【(博士(医学)】。マギル大学、名古屋大学医学部、長崎国際大学を経て、前職の岐阜大学医学部附属病院薬剤部(副薬剤部長)より、2013年10月に薬物動態学研究室の教授に着任しました。
研究室では、くすりの適正使用を推進するために、薬物血中濃度の測定法や遺伝子検査法を開発。医師、病院薬剤師と連携した臨床研究を主に行っています。また、危険ドラッグの検出技術の開発にも取り組み始めました。
本ブログでは、くすりや健康食品を正しく使うための知識をのみあわせの知識などを交えながら、わかりやすくお伝えしたいと思います。
記事一覧
ノーベル文学賞作家、カズオ・イシグロと日本の巨匠
私は、昨年ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの研究をしております。 イシグロは、小津安二郎監督の影響を認めています。はじめて彼の映画を見たのは…
2018/7/24
遺伝の話(3)設計図は書き換えられながらも先祖伝来?
ヒトの体は37兆個の細胞からなるといわれますが、元々たった1つの受精卵から増えたものです。細胞の中にある染色体 DNA は細胞が2倍に増えるたびにコピーされて…
2018/6/30
遺伝の話(2):転写因子って何?
【前回記事】遺伝の話(1):親子そっくり 親から子供に遺伝する姿かたちの特徴として、顔の輪郭、眼の色、髪の毛色やくせ、鼻筋や鼻の穴の形、耳たぶの形、…
2018/6/20
遺伝の話(1):親子そっくり
「〇〇ちゃんの眼、クリクリってしてお父さん似だね。△△くんの鼻はすらっと高くってお母さんそっくり。」小さなお子さんをお持ちの家庭ではよく耳にする会話の…
2018/6/10
お薬に含まれる高分子の役割(3)高分子で拓く夢の新薬
お薬を飲んだ時、その有効成分の全てが患部に届くわけではなく、必要のない部位に作用して副作用を引き起こすこともあります。薬物の有効性と安全性を高める技…
2018/5/30
お薬に含まれる高分子の役割(2):錠剤に使われている高分子の働き
前回は低分子と高分子の違いや高分子の持つ多様性について紹介しました。今回は錠剤に含まれている高分子の働きについて、いくつかご紹介します。 その前に、…
2018/5/20
お薬に含まれる高分子の役割(1):高分子ってどんな物?
「生まれてこのかた、薬など飲んだことがない」という方はおそらくいらっしゃらないことでしょう。頭が痛い、お腹が痛い、熱がある、血圧が高い、私たちはいろ…
2018/5/10
飲酒で顔が急に赤くなる人は「発癌リスク」が高い(3)節度ある飲酒の勧め
飲酒で顔が急に赤くなる人の発癌リスクについてお話ししてきました。結論として、「節度ある飲酒の勧め」でまとめたいと思います。 ■前回記事 飲酒で顔が急に…
2018/5/1
飲酒で顔が急に赤くなる人は「発癌リスク」が高い(2)フラッシャーと食道癌
春酣とはいえ、肌寒い日と初夏の暑さを感じさせる日が交互にやってきて、お身体の調整がままならない方も多いかも知れません。季節柄、健康には充分気を付けた…
2018/4/20
飲酒で顔が急に赤くなる人は「発癌リスク」が高い(1)アルコールフラッシング反応
今年は桜の訪れが少し早いようでしたが、新年度が始まり歓送迎会、お祝い会、花見、…と、何かとお酒をいただく機会が多い時期ではないでしょうか。 私たちにと…
2018/4/10
プロフィール
本学は、美しい金華山と長良川などの自然に恵まれ、また歴史と文化の薫漂う岐阜市の北部に位置し、80有余年に及ぶ歴史の中で、建学の精神である「強く、正しく、明朗に」をモットーに、「人と環境に優しいグリーン・ファーマシー」を基本理念とした薬学教育を通じ、安心で安全な医療に貢献できる薬剤師や、人と環境にやさしい方法で薬を創ることのできる研究者や技術者を養成しています。
地域に生き、世界に伸びる大学として、今までの実績を基にさらに発展し続ける努力を重ねております。
関連リンク
月別アーカイブ
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月