<第32話>心に残る大関列伝(小錦編) 2015/12/6

「黒船襲来」

この4文字が彼の時代と相撲の特徴をすべて表しているのではないでしょうか。
昭和57年6月、18歳のときに来日した小錦は初めて乗った新幹線で名古屋入りしました。高見山というハワイ出身の先輩にスカウトされ、高砂部屋に入門しました。
当時、のちの大関朝潮、関脇水戸泉らがいて稽古相手にも恵まれ、独特のパワーをさく裂させました。四股名も高砂部屋ゆかりの出世名「小錦」をつけられたわけで、その期待に見事に応え、スピード出世をしました。

入門わずか1年後の昭和58年11月場所で十両入り、翌年に新入幕を果たしました。
忘れられないのは入幕2場所目の昭和59年9月場所。前頭6枚目で横綱千代の富士、隆の里の2人を破り、大関若島津にも勝つなど、あわや優勝かと驚かされる強さを発揮し、「黒船襲来」という活字が踊ったのです。
私はこの場所、小錦が千代の富士をわずか、ふた突き半の押し出しで破ったときに「どうにも止まらない小錦の爆心力」と表現したのを思い出します。
「間違いなく横綱」と思われました。
それ以降、大相撲が「技よりもパワー」と言われる時代を迎えたのは小錦旋風によるものでした。

昭和59年9月場所、千代の富士との初対戦で小錦パワーがさく裂

当然「初の外国人横綱必至」と思われたのですが、思いがけずひざの故障でその夢を絶たれてしまいました。

彼にとって一番悔やまれるのは関脇時代の昭和61年5月場所8日目。北尾(のちの横綱双羽黒)との一番で、さば折りを受けて右ひざに半年を越える重傷を負った結果、横綱の道が閉ざされたことです。

昭和61年5月場所8日目、さば折りを受けて重傷

この一番は昭和天皇の目の前で行われ、初めの取組は小錦が押し込んで勝ったかに見えました。土俵際で北尾の苦し紛れの引き落としがあったのですが、流れは小錦のものだという見方が大半でした。天皇陛下へのご説明役を務めた春日野理事長(元栃錦)が御下問に答えました。
「いくぶん小錦のほうがいいように思います」

私は正面でテレビの実況をしていましたが、解説の大鵬さんも同様の見方でした。
ところが取り直しとなってしまいました。その結果、小錦は身体が汗ですべる北尾を押し切れず組み止められ、懸命に寄りたてたところ、さば折りを受けて転倒し、重傷を負ったのです。

この一番が小錦の土俵人生をすべて左右したと言っても過言ではありません。
強い強い大関でした。優勝を2度経験し、横綱寸前まで活躍した小錦でしたが、彼も悲運の大関と言えます。

平成元年11月場所で初優勝を決め、土俵下で思わず涙した(共同)
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プロフィール

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日本福祉大客員教授、元NHKアナウンサー・相撲ジャーナリスト

1930年、北九州市生まれ。早大卒業後、53年NHK入局。初任地は名古屋局で、自身初の大相撲実況は54年2月に金山体育館で行われた大相撲名古屋場所(当時は準本場所)。

NHK在職中は名古屋、福岡、大阪、東京と大相撲の本場所開催地の放送局に在籍。81年、大関貴ノ花引退の放送で思わず絶句。“泣きの杉山、泣かせの杉山”と異名をとる。相撲以外でも東京、メキシコ五輪をはじめプロ野球など各種のスポーツ実況を担当。

現在は日本福祉大生涯学習センター名誉センター長、客員教授。名古屋・栄の中日文化センター講座「大相撲の魅力を語る」で講師を務める。深い知識と豊富な経験を基に、講座で興味津々の話題を紹介してくれる。

著書に「大相撲この名勝負」「土俵の鬼三代」「兄弟横綱−若貴の心・技・体」「土俵のチンギス・ハーン 白鵬」「土俵の真実」などがある。

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