『紺屋高尾』の巻 2016/3/22

毎年3月になると必ずやる持ちネタがある。『紺屋高尾』という落語だ。

吉原の花魁道中で見た遊女に一目惚れした紺屋の職人久蔵。3年間一生懸命に働いて稼いだ15両という大金を花魁に会うために一晩で使う。

それを知った花魁は驚く。物ごごろつくかつかないうちに親に売られてやってきた吉原の地。我々が想像もできないような苦労に苦労を重ねながら生きてきた。

『人なんか誰も信じない』とできた心の壁を久蔵が一気に崩す。

「あちきは主(ぬし)に惚れんした…来年3月15日、年季があきんすによって主の元に行きとうざます。あちきを、お嫁さんにしてくんなますか?」

そして、その言葉通り、3月15日に花魁は久蔵の元へとやってくる。この花魁がやって来る日にちなんで、この時期よく高座で演じられる噺だ。

先日、大須演芸場で開催された地元芸人たちによる自主公演。トリに舞台に上がった俺は、この大ネタをやった。

大須では毎年「大道町人祭り」にて、この花魁道中が再現される。商店街の沿道に並ぶ人垣の真ん中を花魁が練り歩くのだ。

ちなみに第1回目の花魁は旧大須演芸場時代にいつもトリをとっていた柳家小三亀師匠の妻、日比純子先生だ。

ご夫婦で三味線漫談をしていた。

色々な夫婦を見てきたが、こんなにラブラブな夫婦は見たことがない。晩年、腰を悪くされ舞台に上がれなくなった小三亀松師匠。純子先生だけが舞台に出るのだが楽屋には一緒に来る。

「純子はいい女だから、他の男が手をつけるといけないから見張っている」と小三亀松師匠の本気の弁。

その純子先生に最後にお会いしたのが旧演芸場閉鎖の2日前だった。

旧大須演芸場閉鎖2日前にやって来た日比純子先生

ふらっと演芸場にやって来た。「ここがなくなっちゃうんで、もう1度見に来ちゃった〜」と。80歳をこえてはいたが、何とも可愛らしい笑顔を見せた。

持っていたカバンから大きな写真パネルを出して俺に見せた。すでに亡くなってしまっていた旦那である小三亀松師匠が高座で三味線をつま弾き、その隣に自分が写っている夫婦の姿がそこにあった。

「毎日これ持って一緒にいるの〜。まぁ〜いい男」

冗談とかじゃなく心の底から、そう言っているのが表情からわかった。

80歳を過ぎても…もっと言えば、相手がすでに、この世にいなかろうが「恋」はできるということを、その日俺は教えてもらった。

今は2人、あっちの世界で相変わらずラブラブしながら大須演芸場が復活したことを喜んでいるに違いない。

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プロフィール

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世界で唯一の落語家+漫画家

昭和46年、浜松市生まれ。関東学院大学中退。平成6年、立川談志に入門、立川志加吾を名乗る。平成14年、第三次前座全員破門騒動により立川流を破門。平成15年、名古屋唯一の落語家、雷門小福門下に移籍して、雷門獅篭と改名。
著書に「名古屋式。」「ご勝手名人録」などがある。現在、FMラジオサンキューでパーソナリティー、名古屋文化短期大学で講師を務める。

東海地区に演芸を広めるために結成された海演隊(かいえんたい)リーダー。メンバーは、ほかに雷門幸福(落語)、雷門福三(落語)、古池鱗林(講談)、柳家三亀司(江戸曲独楽)。

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