食品の安全性を考えるA 〜食品中に存在するリスクって何?〜 2019/10/4

 今回も前回に引き続き、食品の安全性についてのお話です。今回は食品中に存在するリスクについて考えてみたいと思います。

前回記事『食品の安全性を考える@ 〜天然由来成分は本当に安全なのか?〜

健康被害の頻度が高い食品中のリスク因子

 皆さんは食品中に存在する体によくないもの(リスク因子)といえば、何を思い浮かべますか?おそらく農薬とか食品添加物とか、そういった類いのものを想像されるのではないかと思います。もちろん農薬とか食品添加物のリスクを考えることも重要ですが、私たちの食生活においてはこれらによる健康影響の頻度よりも、もっと出会う頻度の高いリスク因子が存在します。それは細菌類やウイルスです。

 平成30年度の食中毒発生件数は1,330件、患者数は17,282人でしたが、化学物質が原因で発生した食中毒は発生件数、患者数ともに全体のわずか2%程度でした。その一方で、細菌類、ウイルスが原因で発生した食中毒の発生件数は、全体の55%、患者数に至っては全体の約90%を占めています。いかに細菌類やウイルスが、食品の安全性を議論する際の大きなリスク要因となっているかがお分かりいただけると思います。

 細菌類の中で最も食中毒の発生頻度の高いものとしては、カンピロバクターがあげられます。細菌性食中毒の7割近くは、カンピロバクターによるものです。カンピロバクターは多くの動物の腸管内に広く常在菌として生息しています。ニワトリ、ウシ等の家禽や家畜をはじめ、イヌ、ネコなどのペットも保菌しています。そのためカンピロバクターによる食中毒には季節性がなく、1年を通して発生します。この他にも食中毒を引き起こす主な細菌類としては、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌、ウエルシュ菌、黄色ブドウ球菌、病原性大腸菌などがあげられます。

 一方でウイルス性食中毒の代表格はノロウイルスです。実にウイルス性食中毒の約95%が、ノロウイルスが原因となっています。ノロウイルスによる食中毒には季節性があり、秋頃から春にかけて流行します。また一度の事例で発生する患者数が多く、平成30年度の食中毒患者の約半数はノロウイルスが原因となっています。これはノロウイルスの感染力が非常に強いため、家庭や施設などで患者が発生すると、二次感染を起こし、集団感染(発生)を引き起こすことが要因であると考えられます。

食中毒を引き起こす病原体の特徴とその予防

 細菌性食中毒は大きく分けて2つのタイプに分かれます。一つは細菌自体が体の中に侵入して食中毒を引き起こすタイプ、もう一つは細菌が作る毒素が体の中に侵入して食中毒を引き起こすタイプです。もう少し詳しく説明しますと、前者は食べる前に食品中で細菌が生きていないと発症しません。細菌類の多くは熱に弱いので、こちらのタイプでは食前加熱が食中毒の予防に有効である場合は多いです。これに対し後者は、細菌が死滅していても食品中に毒素が残っていると発症するのが特徴です。一般的に細菌類が作る毒素は熱に強いものが多いので、こちらのタイプは食前加熱をしても、毒素で食品が汚染されていると食中毒を発症するリスクが高くなります。黄色ブドウ球菌による食中毒は、こちらのタイプになります。一方でウイルスは、ウイルス自体が体の中に侵入して食中毒を発症しますが、こちらも熱に弱いので、食前加熱で発症を予防することが可能です。

 通常、皆さんが食べる直前の食品は、完全に無菌の状態ではありません。大なり小なり何らかの微生物が存在しています。一方で、我々の体には免疫という病原体から体を守る機能が備わっていますので、少しぐらいは微生物が体に侵入しても、病気を発症せずに排除することができます。つまり、これらの微生物による食品汚染が食中毒を発生する量よりも少なければ健康被害はありませんが、その閾値(限界値)を超えてしまうと食中毒を発症します。食中毒を防ぐには、手洗いや清潔な調理器具を用いて食品に病原体を付けないことが第一です。またもし気づかないうちに汚染してしまった場合でも、これらの病原菌を増やさないようにコントロールすることが重要です。このコントロールには加熱調理や冷蔵保存が有効な手段ですが、これに加えて保存料などの食品添加物も非常に重要な役割を果たしています。

 次回は、保存料などの食品添加物の安全性について、お話しをしたいと思います。

中西 剛(ナカニシ ツヨシ)
岐阜薬科大学 生命薬学大講座 衛生学研究室 教授

平成5年 大阪大学薬学部薬学科卒業。平成7年大阪大学大学院薬学研究科 博士 前期課程修了、平成10年同研究科 大阪大学大学院薬学研究科博士後期課程修了 博士(薬学)号取得
同年4月に 大阪大学大学院薬学研究科 毒性学分野 助手として着任、内分泌かく乱化学物質に関する研究に従事。
平成20年 岐阜薬科大学 衛生学研究室 准教授、平成30年より現職。

社会活動:
内閣府食品安全委員会 専門委員(令和元年10月より)
岐阜県環境影響評価審査会 委員

賞罰:
平成30年 日本薬学会学術振興賞 受賞、日本毒性学会日化協LRI賞 受賞 他

現在は、内分泌かく乱化学物質に関する研究に加え、化学物質によって誘発される生殖発生毒性、免疫毒性、脂質代謝異常、神経毒性などに関する分子メカニズムの解明や毒性試験法の開発などを行っている。

PR情報

記事一覧

スポーツと薬のはなし〜防ごう!うっかりドーピング〜

東京オリンピック・パラリンピックまであと1年。楽しみにしている人も多いと思います。東京での開催は56年ぶり2回目です。しかし、いまから79年前、実は幻の東…

2019/8/21

登山を健康に楽しむために注意すること

明日8月11日は「山の日」です。山の日は2016年に新設された新しい祝日で、祝日法という法律では「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する日」と定義されてい…

2019/8/10

“美と健康”の好循環による健康長寿の実現

前回、実際の年齢より若く見える要因のお話と、風が吹いたら桶屋が儲かる的なお話ですが、見かけ年齢が若く見えと、人や社会との接点の増加する ⇒ ライフスタイ…

2019/7/30

実際の年齢より若く見える要因と健康との関係

前回、デンマークでの双子の追跡研究結果から、見かけ年齢(第3者が双子を見た目で判定した年齢)の若い方が統計学的に長生きした、すなわち同年齢でも若く見え…

2019/7/20

健康長寿と見かけ年齢

最近の研究によると、ヒトの限界寿命(生物学的に決められている上限の寿命)は125歳で、その歳まで生きられる確率は1万分の1といいます。日本人の平均寿…

2019/7/10

高薬価:その背景は?

一般に医療用医薬品の開発・販売は、営利目的の製薬企業が担っており、自動車や家電、食品などと同様に研究開発を行い、原材料を加工製造して、一定の利益を含…

2019/6/30

高薬価:高額療養費制度でカバーされるというけれど

我が国に現在の形となる市町村運営方式による国民皆保険制度が導入されたのは、1958年の国民健康保険法改正後であり、1961年にその体制が整えられました。そし…

2019/6/20

1回治療3000万円超の医薬品(高薬価)

近年、超高額薬価と言われる医療用医薬品(医療機関で処方してもらう医薬品)が登場するようになり、各種メディアを賑わしており、皆さんもご存知のことでしょ…

2019/6/10

水道水の話B 〜新たな浄水法:膜ろ過方式〜

前回(水道水の話@、A)までは、水道水が主に「砂ろ過」で浄化され、またその後の「塩素消毒」が飲み水を媒介する感染症の防止に重要であることをお話ししてき…

2019/5/30

水道水の話A 〜水道水の塩素消毒って必要なの?〜

■なぜ水道水に塩素が必要なのか? 前回(水道水の話@では)、水道水が主に「砂ろ過」により浄化されていることをお話しましたが、この方法だけでは病原微生物ま…

2019/5/28

プロフィール

19

達人に質問をする

本学は、美しい金華山と長良川などの自然に恵まれ、また歴史と文化の薫漂う岐阜市の北部に位置し、80有余年に及ぶ歴史の中で、建学の精神である「強く、正しく、明朗に」をモットーに、「人と環境に優しいグリーン・ファーマシー」を基本理念とした薬学教育を通じ、安心で安全な医療に貢献できる薬剤師や、人と環境にやさしい方法で薬を創ることのできる研究者や技術者を養成しています。

地域に生き、世界に伸びる大学として、今までの実績を基にさらに発展し続ける努力を重ねております。

関連リンク

ピックアップ

  • サンタ休んでマス
  • 会員登録
  • ログイン
今日の天気(17:00発表)
名古屋
晴れ後曇り
17 ℃/5 ℃
東京
曇り時々晴れ
17 ℃/7 ℃
大阪
晴れ後曇り
16 ℃/6 ℃
  • 東名で渋滞情報あり。
  • 登録路線が未設定です。

企画特集(PR)

  • 公式 Twitter はこちら
  • 公式 Facebook はこちら
クラウドファンディング 夢チューブ 中日新聞
東京新聞 電子版
中日新聞の人材研修 ビジネストレーニング「ビズトレ」
中日販売サポート
東海テレビ 庄野アナと 新聞を音読してみよう!
中日防災ナビ
こどもウイークリーのこーなー
過去の企画・特集