スポーツと薬のはなし〜防ごう!うっかりドーピング〜 2019/8/21

東京オリンピック・パラリンピックまであと1年。楽しみにしている人も多いと思います。東京での開催は56年ぶり2回目です。しかし、いまから79年前、実は幻の東京オリンピックがあったのをご存知ですか?

1940年の夏季オリンピックは東京で行うことが決まっていましたが、盧溝橋事件を発端とする支那事変の影響で日本政府が開催権を返上し開催されなかったのが1940年東京オリンピックなのです。オリンピック・パラリンピックは「平和の祭典」です。2020年東京オリンピック・パラリンピックが平和裡に開催されることに感謝したいと思います。

さて、近代オリンピックは、1896年に第1回がアテネで開催されました。この近代オリンピックの提唱者であるフランスの教育学者ピエール・ド・クーベルタン男爵は、オリンピックの目的として「スポーツが平和の実現に寄与する」ことを掲げ、そのためにはルールを遵守し全力を尽くす「フェアプレイの精神」をもって理解し合うことの重要性を提唱しています。このクーベルタン男爵の思想は現在のオリンピック憲章に受け継がれています。

1988年ソウルオリンピックで、ジャマイカ出身カナダ国籍のベン・ジョンソン選手が100m決勝で当時の陸上競技界のスターであった米国のカール・ルイス選手を破って9秒79の世界新記録を樹立して優勝しました。しかし、レース後のドーピング検査で陽性反応が出たことにより、ジョンソン選手は金メダルを剥奪され、ルイス選手が繰り上げで金メダルを獲得しました。当時、高校生だった筆者はこの事件に衝撃を受けたことを覚えています。

検出された薬剤は筋肉増強剤であるアナボリックステロイドの一種でした。筋肉増強剤の使用は当然ながらフェアプレイの精神に反し、スポーツ選手を目指す子供たちやスポーツを応援する人々の期待を裏切る行為として許されません。また、選手自身も、肝臓がん・前立腺がんの発生率上昇や、高コレステロール血症に伴う心筋梗塞リスクの上昇など、致命的な副作用のリスクに晒されることになります。

アンチ・ドーピング規則違反となる薬の使用などについては、世界アンチ・ドーピング機関(World Anti-Doping Agency, WADA)が公表する禁止表国際基準(The Prohibited List)に掲載され、毎年改定されています。禁止物質であっても、病気の治療に必要な場合、投与経路によっては使用できたり、事前に届け出て承認されれば使用できる場合があります。長野五輪スピードスケートでの金メダリスト清水宏保選手は、喘息で薬物治療を継続しながら出場しています。どのような薬をどのように使えば規則違反とならないのかは、専門家によく相談することが大切です。日本アンチ・ドーピング機構(Japan Anti-Doping Agency, JADA)では、最新のアンチ・ドーピング規則に関する正確な情報・知識を持ち、薬の正しい使い方の指導できる薬剤師を「公認スポーツファーマシスト」として認定しています。全国に約9,000人いるスポーツファーマシストは、JADAのWEBサイトから検索ができます。

ドーピングはもちろん許されない行為ですが、意図せずにアンチ・ドーピング規則違反となることがあります。例えば、市販の風邪薬や胃腸薬、漢方薬、サプリメントなどにも禁止物質が含まれていることがあります。アスリートはこの「うっかりドーピング」であっても、陽性となれば処分の対象となります。2011年ラグビー日本代表候補の山中亮平選手(神戸製鋼)は、なんと育毛剤の成分でドーピング検査陽性となり、資格停止処分を受けています。育毛剤には禁止物質である男性ホルモンが含まれているものがあり、皮膚から吸収された成分が尿検査で陽性を示したと思われます。

このような悪意のない「うっかりドーピング」はドーピングに対する意識が小さい人ほど起こしやすいと言われています。アスリートの方は「うっかりドーピング」を防ぐためにも、薬やサプリメントについて、「公認スポーツファーマシスト」の資格を持つ薬剤師に相談するとよいでしょう。

林秀樹  岐阜薬科大学 実践薬学大講座 実践社会薬学研究室 准教授

平成8年 名城大学薬学部卒業、平成10年 静岡県立大学大学院薬学研究科修士課程修了、平成20年博士(薬学)取得。平成10年より岐阜大学医学部附属病院薬剤師、平成17年より静岡県立大学薬学部講師、平成26年より現職。

臨床薬物動態学および薬理遺伝学研究に従事。医薬品の効果や副作用の個人差の原因を解明する臨床研究を行っている。

平成23年東日本大震災、平成28年熊本地震において薬剤師として被災地支援に従事。平成27年バヌアツ共和国サイクロン被害に対する国際緊急援助隊医療チームに薬剤師として参加。

日本医療薬学会指導薬剤師、日本臨床薬理学会指導薬剤師、日本災害医学会災害医療認定薬剤師、日本臨床薬理学会評議員、日本医薬品安全性学会評議員、日本災害医学会評議員、日本災害医療薬剤師学会理事、静岡県立大学薬学部客員准教授、岐阜大学医学部非常勤講師、朝日大学保健医療学部非常勤講師。

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地域に生き、世界に伸びる大学として、今までの実績を基にさらに発展し続ける努力を重ねております。

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