<第9話>名古屋場所をふりかえって 満足と落胆と 2013/7/26

名古屋場所はお客さんが戻ってきました。昨年5日間だった満員御礼が、今年は7日間出ました。愛知県体育館内の歓声を聞いてほっとしました。

名古屋場所をふりかえると、「満足と落胆」がありました。

満足は白鵬の優勝ですが、これは当然です。43連勝は立派、13日目までの存在は第一人者として十分評価できます。右脇腹のけがは不測の事態なので、あれがなければ45連勝の可能性は十分ありました。

10日目、強烈な突っ張りで里山を攻める遠藤(左)

遠藤と大砂嵐は予想どおりの活躍をしてくれました。ご存じのとおり遠藤は近年なかった高いレベルでの14勝1敗の優勝。おそらく1場所で新入幕を果たすでしょう。

学生出身力士が伸び悩む中、近い将来は間違いなく三役以上がのぞめる出色の新人です。相撲内容も性格もすばらしい。前向きで攻撃タイプ、受けにまわっても守りで挽回した相撲が3番ほどありました。体のバランスが良く好感をもちました。ぜひぜひ今の相撲を続けてほしいですね。

大砂嵐はラマダンと苦闘しながら15日間全うし、10勝5敗の好成績でした。強烈な突っ張りだけでなく、四つに組んでも力があるところを見せました。遠藤とともに将来が楽しみです。

この2人のおかげで久しぶりに十両の取組が注目され、お客さんの視線をひきつけました。今後、2年ほどで相撲界の地図が大きく変わる可能性を感じます。

3日目、苦手栃煌山に突き落としで破れた稀勢の里

一方、落胆したのはやはり稀勢の里ですね。

夏場所13連勝したことで開眼したと思いました。しかし、「いまだし」と言わざるをえません。精神的に固くなりすぎ、序盤戦にそのまま出てしまいました。金縛りになっていましたね。

大関、横綱は苦手を作ってはいけない。克服することで最高位を目指せるのです。栃煌山にはなすすべなく負けてしまいましたね。その敗戦が妙義龍、千代大龍戦にも尾を引いていました。栃煌山には場所前の稽古でもまるっきり歯が立たなかった。どうしてだろうというぐらい栃煌山は苦手なんですよ。

救いは中盤以降立ち直って両横綱に圧勝したことですね。しぼみかけた土俵を最後まで注目させました。ただ、千秋楽にまた琴奨菊に完敗。先場所と同じ負け方はいけません。負け方が悪すぎで、いつもワンパターンですよ。これを乗り越えなければ横綱は遠いでしょう。

日馬富士は昨年名古屋場所で全勝し綱への道を切り開きました。ファンは同様の相撲を期待したと思いますが、横綱とは思えない惨めな負け方でしたね。これでは綱の値打ちが問われます。横綱審議委員に「しっかりしろ」と言われても仕方ないです。

3日目、日馬富士を上手ひねりで破り、金星を挙げた高安(左)

高安は一皮むけましたね。場所ごとに力をつけて存在感がある力士になりました。特に右上手を引いてからの攻め、投げとひねり、両方持っていることを印象づけました。秋場所は平成生まれ初の新三役誕生は間違いありません。さらなる上を目指せます。

栃煌山、妙義龍、豪栄道もうかうかしていられませんよ。豪栄道、妙義龍の両関脇は7敗しながら後半盛り返し、勝ち越したのはいい根性しています。

琴欧洲は久しぶりに終盤近くまで土俵を盛り上げました。開き直っていましたね。背が高いのに縮こまった相撲がなくなり、突き放して前に出る相撲が増えました。中盤まで優勝圏内に残っていましたから。忘れられそうになっていた存在がそうじゃなかったことを示しましたね。

日馬富士、稀勢の里を倒した千代大龍は攻めが強く、将来楽しみですね。かち上げを生かし体ごと前に出る相撲で、あわや三賞だったのですが、負け越してしまい残念でした。

蒼国来は2年半のブランクがありながら、よくやりましたよ。相撲内容が紳士、一番も逃げたり叩いたりせず真正直にやっているのが良かった。ファンの温かい声援も印象に残りました。来場所は十両に落ちますが、また復活しますよ。

来場所の展望ですが、まずは稀勢の里でしょう。

綱とりが白紙同然になったのは残念です。12勝していれば秋場所間違いなく綱とりの話題になったのですが、11勝止まりだったのは白紙と言われてもやむをえません。ただ、全勝優勝すれば、綱昇進がないとは言えないと思っています。

横審の昇進内規は「大関で2場所連続優勝、もしくは準ずる成績」となっています。かつて貴乃花が平成6年に夏場所14勝1敗で優勝し、名古屋場所11勝、秋場所全勝優勝したときに綱昇進が見送られました。

当時、横綱にすべきだと声を大にしたのですが、かないませんでした。稀勢の里は夏場所優勝していませんが、次の11勝は同じ。ただ、日本人がもう10年近く横綱になっていませんから。周囲の状況を考えると全勝優勝したら綱にしてもいいんじゃないかという見方が出てくるでしょう。個人的にはその方に賛成です。

同じ優勝でも全勝はすごい重みなんですよ。全勝は「その限りにあらず」という言葉もあるぐらいですから。ほかの優勝とは全く値打ちが違うという意味です。ただ、その可能性は低いでしょう。

日馬富士は巻き返しをしないといけませんね。このままだと先の見通しが難しくなります。せっかく期待されて綱を締めてるんですから。

白鵬は脇腹さえ治れば、また白星街道を目指してやるでしょうが、連勝は容易ではないですね。名古屋場所終盤では勝ちながらも土俵際まで追い詰められた相撲が多く見られました。白鵬も万全ではなかったと思います。

上手投げ、小手投げにこだわりすぎた点が気になります。正攻法で寄り切ればいいんです。大鵬のように組み止めたあと、じっくり料理する手法を考えてほしいですね。ちょっと相撲が粗雑でした。あれでは腰もねじるし、脇腹も痛めます。

遠藤はどこまで幕内でやれるでしょう。今までの相撲を忘れないこと。学生出身者は往々にして伸び悩んでいます。安住の地と決め込むところがあります。遠藤は脇も固いし、前さばきもうまいです。

課題は立ち合いのスピード、出足を磨くことでしょう。大砂嵐の入幕は微妙ですね。名古屋場所で話題を集めた2人が大きく注目されるでしょう。

幕下の上位40人の中に20歳前半の若者が16人います。体もかなり恵まれ、相撲っぷりもいい複数の力士に注目しています。相撲界の地図が大きく変わろうとしている、秋場所に早くもその流れが見えてくるのではないでしょうか。

新十両になるモンゴル出身の若三勝改め照ノ富士がいいですね。将来の大関横綱候補でしょう。21歳、身長191センチ、体重161キロと体も申し分なく全体のバランスもすばらしいです。四つ身の相撲も取れるし、突き押しもありますから。育て方次第ですね。

同じモンゴル出身はたくさんいますが、白鵬に継ぐ存在になりうる可能性を持っています。彼にも注目してください。

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プロフィール

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日本福祉大客員教授、元NHKアナウンサー・相撲ジャーナリスト

1930年、北九州市生まれ。早大卒業後、53年NHK入局。初任地は名古屋局で、自身初の大相撲実況は54年2月に金山体育館で行われた大相撲名古屋場所(当時は準本場所)。

NHK在職中は名古屋、福岡、大阪、東京と大相撲の本場所開催地の放送局に在籍。81年、大関貴ノ花引退の放送で思わず絶句。“泣きの杉山、泣かせの杉山”と異名をとる。相撲以外でも東京、メキシコ五輪をはじめプロ野球など各種のスポーツ実況を担当。

現在は日本福祉大生涯学習センター名誉センター長、客員教授。名古屋・栄の中日文化センター講座「大相撲の魅力を語る」で講師を務める。深い知識と豊富な経験を基に、講座で興味津々の話題を紹介してくれる。

著書に「大相撲この名勝負」「土俵の鬼三代」「兄弟横綱−若貴の心・技・体」「土俵のチンギス・ハーン 白鵬」「土俵の真実」などがある。

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