映写室から見た人たちA〜園子温監督〜 2013/10/18

『地獄でなぜ悪い』撮影中の園子温監督

以前、当ブログにA・キアロスタミ監督が来館したときのことを書いた。この世界的な名匠の登場はちょっと特殊なケースだったけれど、ほとんどのゲストは自身が関わった映画が上映されているときにやって来る。

それはまぁ当然のことで、用もないのに来る人はほとんどいない。が、自分の映画が上映されていなくてもやって来て、当館スタッフの部屋に幾日も泊まりこみ、昼間はシネマテークで映画を見、夜は今池界隈で痛飲する日々を送った人がいる。園子温監督だ。

彼と我々との出会いは、1987年に遡る。今も続く当館のオリジナル企画「自主製作映画フェスティバル」の第一回で、彼の『決戦・女子寮対男子寮』という8ミリ映画を上映したときだ。開催に合わせて来館した園監督は、ナイーブな雰囲気の中に、マグマのような熱いものを持った人、という印象だった。

それから、この一風変わった監督との付き合いが始まる。以後『自転車吐息』(90年)『部屋』(93年)『桂子ですけど』(97年)など、新作が出来る度に公開してきたが、今のように売れっ子監督でなかった彼は、気が向くとやってきて、映画を見、痛飲し、仲の良いスタッフと遊びに出かけていた。

何度も一緒に飲みに行ったけれど、とにかくエネルギッシュに話す。ときに意図的に相手を怒らせるようなことを言う困った癖もあったが、映画に関する話は、いつも面白かった。それも、良かった映画のみならず、彼がつまらないと思った映画の話も、また面白いのだ。

おそらく彼にとって、すべての映画は脳内ミキサーでかき混ぜられて、養分として吸収されていたのだろう。『冷たい熱帯魚』(2011年)以降の快進撃を見ていると、そのことを痛感する。

先日、最新作『地獄でなぜ悪い』を見に行った。ひたすらハイ・テンションで押しまくるエンタティメント映画で、満員の客席には笑いが溢れていた。展開の強引さがそのまま面白さとなるような、画面の力と、物語の力に満ちた作品だ。その一方で、「映画」という、いきいきとした虚構を生み出す表現への深い愛情が感じられ、胸うたれる部分もある。

とりわけ、今や消えつつあるフィルムというメディアへの愛惜が描かれるシーンは、彼のナイーブさがストレートに出ていて印象的だ。かつて映画がフィルムで作られていた時代、たとえアマチュアの8ミリ映画であっても、限られたフィルムを少しでも有効に使おうという緊張感があった。

まして35ミリとなれば、それはもう自分とは遠い所の話で、映画のプロ達が特別な奥義を駆使し作っている世界としか思えなかった。おそらく園子温はじめ、当時の多くの自主映画作家達は、いつかそんな特別な世界で「映画」を作ることを夢見たことだろう。

そうした映画の神聖なイメージは、今や良くも悪くも消え去った。だが、『地獄でなぜ悪い』には、神聖なものを胸中に抱いたことのある人間だけが持つ幸福感と切なさがみなぎっていて、それも大きな魅力となっていた。

多忙になった園監督には、当分シネマテークで遊ぶ暇は無さそうだ。今は、その調子でどんどん若い観客を驚かせ、影響を与えてほしい。そこから新しい才能が生まれてきたら、きっと楽しいだろう。そいつらの映画を肴に、また飲もうぜ!

『地獄でなぜ悪い』10月24日(木)までミッドランド スクエア シネマにて上映中
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プロフィール

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名古屋シネマテーク 支配人

1961年、名古屋市生まれ 。南山大学卒。在学時から、自主上映団体「ナゴヤシネアスト」のスタッフに参加。

卒業後は、同会が1982年に設立したミニ・シアター「名古屋シネマテーク」の専従スタッフとなり、1987年より支配人。

1993年〜2002年、愛知芸術文化センターオリジナル映像制作作家選定委員。

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