珈琲の旅〜福岡 Part5 後編 2016/6/30

福岡、珈琲美美の森光宗男氏

いつもありがとうございます。珈琲美美の森光さんの続きをお話ししたいと思います。

じつは、森光さんの話をすると、それだけで一冊の本が書けるくらい奥の深〜い方ですので、一、二回で簡単には書けませんが、何とか雰囲気だけでも森光さんの素晴らしさを知っていただければと思います。

2階からの眺め

珈琲美美は現在、赤坂の緑に囲まれた大通りで営業しています。1階が焙煎室と豆売りのコーナーで、2階が喫茶スペースになっています。2階からの景色は緑に囲まれてとても落ち着く空間です。

森光さんはエチオピア、イエメンのモカコーヒーの第一人者です。自ら、イエメン5回、エチオピア6回(7回かも?)産地に出向き実践的にリサーチしています。森光さんは全人生をコーヒーの研究と普及に努めていて、独自の珈琲理論を持っています。

手の間文庫より出版された「モカに始まり・・」 森光宗男 著

何回もモカコーヒーの産地をめぐり、その体験をもとに、2012年一冊の本にまとめました。「モカに始まり・・」という、手の間文庫(今は休業中)から出版された名著です。素晴らしい内容で、コーヒーに携わる方にはすべてが参考になる名著です。

私も昭和初期から名著といわれる珈琲本をほとんど持っています(約200冊)が、こんなに素晴らしい本はめったにありません。特にモカコーヒーに関しての資料としては永久保存版と呼ぶに値します。

ぜひ多くの方にお読みいただきたいのですが、すでに絶版になっていて、中古市場でしか買うことが出来ません。中古市場では6,000円以上の値がついていますので簡単には買えませんが・・・ 再版を希望していますがなかなか難しいようですね。

当世、コーヒーの本は多く出ていますが、残念ながらほとんどが技術本です。コーヒーを作るにはいろいろな方法論があります。また、これで良いという絶対的なものもありません。よってこれらの技術本はほんの小さな参考資料にしかならないと思って接しなければとても危険です。

日本人は特に活字に弱いので、内容を絶対だと思ってしまう方が多いようです。くれぐれも気を付けてください。

旧 吉祥寺「もか」店主、標交紀氏が使っていた焙煎機

森光さんは、焙煎法も独創的です。普通は麻袋から出した生豆は、そのまま何も手を加えずに焙煎に入るのですが、森光さんは、まずコーヒー生豆を洗う事から始めます。

本来、コーヒーをある程度の期間乾燥させて、余分な水分を抜いてから焙煎するのが一般的ですが、森光さんはわざわざ水で洗い、逆に水分量を上げて焙煎するという焙煎法を自らあみだして焙煎しています。

それには、いろいろな独自の考えがあっての事なのでしょうが、一つ考えられるのは、エチオピアのコーヒーセレモニー(前々回のマスカル珈琲店編を参照)で豆を洗うという事からヒントを得たと私は思っています。

セレモニーでは「まず生豆を水で洗い・・」とありますが、豆の汚れを取り除く為と解釈するのが一般的な考えですが、森光さんは違った視点で「洗う」という事を「神聖化(豆への敬意)」することから始めています。

また、「水分を含ませることで返って香味の良い焙煎が出来る!」などとも考え、自分流の焙煎を進化させているのです。この水洗い焙煎法を本で紹介したり、隠すことなく他人にも教えていますので、今では多くの方が生豆を洗って焙煎しています。

しかし、形だけをまねしてもなかなかうまくはいかないようです。本当のところ(真実)は本人しかわからないことだと思います。

〜手の中にだけ真実がある〜

森光さんの著書の中の言葉です。

また、森光さんといえばネルドリップの信仰者、または伝道師としても有名です。今では珍しくなった「ネル(布)ドリップ」を普及推進しています。

「コーヒーはドリップで始まりドリップで終わる」

といわれていて、いろいろな抽出器の中でも、ドリップコーヒーが一番良い香味が出るということは何度もお話ししてきましたね。その元、原点にあるのがネルドリップなのです。

今は時流に合っているペーパードリップが流行っていますが、ネルドリップを簡素化して手軽に使い捨てにしたという便利さを追求したドリップ法で、決しておいしさを追求して辿り着いた抽出法ではありません。

やはり一手間も二手間もかかるネルドリップで淹れたコーヒーは他の追従を許さない素晴らしい香味のコーヒーが出来上がります。その良さをもっともっと多くの方に理解していただこうと一番真剣に思っている方なのです。

一昨年の渋谷のヒカリエで行った「ネルドリップを楽しむ会」を皮切りに、日本各地、韓国のソウルなどでも、ネルドリップの良さを知っていただくための会を多く行っています。

森光さんは病気を抱えていて体調が万全ではないにもかかわらず、本当に精力的に自らの身体を酷使して普及に努めています。まさに「命懸けで・・・」

私も、少しでもお役にたてるように微力ながらお手伝いさせていただいていますが、ネルドリップの素晴らしさをご理解いただくには時間がかかりそうです。

ドリップポットの歴史は、1800年頃、フランスのドゥ・ベロワというパリの大司教がドリップポットを設計し、「コーヒーの粉を濾して飲む」というスタイルを普及させ始まりました。森光さんは、今回このドゥ・べロワのドリップポットをヒントに独自のドリップポットを開発発明しました。

私は写真や設計図等を今回訪ねた時に見せていただきましたが、一般的な発表は10月1日のコーヒーの日に、渋谷ヒカリエで発表するそうです。どんなポットが出来上がるか楽しみにしていてください。

珈琲美美で現在修行しているお弟子さん達

福岡の名店、珈琲美美には、何年も修業して珈琲店を開店したお弟子さんが多くいます。今でも修行している若者が数人働いています。珈琲屋になるための修行は大変ですが、ここでも森光さんの独自の育て方、修行の仕方が見て取れます。働きながら修行したいという方に一つだけ条件を約束するそうです。それは・・・、

「コーヒーの事は聞かないで」

という条件なのです。物は教わるものではなく、盗み努力して経験して掴み取るものだと・・・。自らの珈琲店を目指すなら、一番大切な事は人に教わる事ではなく自分で工夫していろいろ試し掴み取っていくもの。それがその人の大いなる未来の発展に繋がっていくと。

これは人から聞いた話ですので本当かどうかわかりませんが、いかにも森光さんらしいと私は思います。今、巷では「自家焙煎珈琲屋開店セミナー」なるものが横行しています。一週間合宿して機械式焙煎機を使い、焙煎の方法など技術面を教えてくれるのです。こうしてこうやってこのように・・・などと。その後、数か月で自家焙煎珈琲店をオープンするのです。

焙煎機の設置、抽出法、豆の焙煎、ブレンド、生豆の供給などすべて指導してくれるのです。
自家焙煎というのか「他人のまね焙煎」というのかわかりませんが、モデルの店があるので、美味しく繁盛している店が多いのです。それはそれで悪くはありませんが、「他人の」理論、焙煎法、味創りなのは、「自家焙煎珈琲店」としていかがなものでしょうか?

その後、自分の珈琲創りに目覚めた時に、その技術、感性が備わってしまっていますので、かなりの遠回りをするように思います。苦なくして得られるものはありません。森光さんは「自分の珈琲を創るのですよ!」と教えているのでしょう。

今の時代には流行らない!なんていう方もいるのでしょうね。とんでもありません! いや、むしろ、今の時代だから大切なのです!

森光氏の奥さんもベテランのコーヒーマンです

兎にも角にも、森光さんの話は枚挙にいとまがありません。

「百聞は一見にしかり」

実際に珈琲美美に行ってその雰囲気、味を自ら体験されることをお勧めいたします。きっと、珈琲屋という観点が変わると思いますよ。

福岡珈琲の旅シリーズは今回で終了です。訪問した店の方々に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

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プロフィール

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日本コーヒー文化学会 理事、日本スペシャルティーコーヒー協会会員(SCAJ)、SCAJ公認 コーヒーマイスター(NO.169)、前・金沢大学講師 (文部科学省公認)

1977年岐阜県瑞浪市に「待夢珈琲店」開店、コーヒーの歴史書や専門書を読みあさり、独学で焙煎を覚え、自家焙煎の珈琲専門店をスタートさせる。

その後、世界のコーヒー産地を自らの足で回り、納得のいく優良な豆を買い付け、良質で新鮮な体に良いコーヒーを提供しています。

また、現在、中日文化センターの珈琲教室をはじめ、基礎クラスから専門クラスまで12講座をこなしています。

産地歴訪はエチオピア3回、イエメン4回、ブラジル、インドネシア、ケニア、タンザニア、ペルーなど。

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