新しい糖尿病治療薬:グリフロジン製剤 2019/10/20

第一回記事:新しい糖尿病治療薬

糖尿病と言うぐらいですから、尿に糖が排泄される病気であることは容易に想像がつくでしょう。実際、糖尿病では尿糖が陽性となり甘い尿が出るようになります。以前はこれを良しとせず、また、簡易的に計測可能な尿糖を糖尿病の診断指標に用いていたため、尿糖を減らす薬物治療が行われていました。しかしグリフロジン製剤(前回記述参照)の登場が、この概念を覆しました。

前回記事:新しい糖尿病治療薬

そもそもブドウ糖が重要なエネルギー源であることから、ヒトの腎臓では血液をろ過した原尿の中からブドウ糖を捕まえて血液に戻す運び屋(SGLT2)が機能しています(これを再吸収と言います)。そのため健康なヒトではほとんど尿にブドウ糖が出てくることがありません。糖尿病になると、ブドウ糖が多すぎて再吸収しきれなくなり、尿糖となるわけです。腎臓でこの運び屋の働きを阻止すれば、言わばブドウ糖が垂れ流し状態になるわけで、自ずと血糖値も下がるというものがこの薬剤の考え方です。

前回も書きましたように、わたしたちの体は食事などにより血糖値が上昇すると、すい臓からインスリンが分泌されて、ブドウ糖をグリコーゲンとして肝臓や筋肉に貯蔵させ、血糖値を低下させます。このとき肝臓に蓄積されなかった余剰のブドウ糖は中性脂肪として脂肪に蓄えられます。すなわち、インスリンは血糖値を速やかに低下させるホルモンですが、その分エネルギーを体内に蓄えてしまうため、体重増加を起こす場合があるのです。

グリフロジン製剤では血糖降下作用にインスリンの関与が無いため、体重増加を来さないと言われています。これは別の見方をすれば、インスリン注射を必要とする1型糖尿病にも血糖値を調整する手段として使えると言うことです。さらに最近の研究では、糖尿病患者において高い心筋梗塞や脳卒中の発生リスクを低下させる結果も出てきています。

もちろん薬ですから副作用もあります。尿に糖がたくさん出るので、脱水や尿路・性器感染症などのリスクが高まります。ご自身の病気の具合、体調などを考慮して、専門家に相談しながら治療を進めてください。

※ちなみにグリフロジン製剤は、世界に先駆けて日本で生み出されたものです。医薬品の承認は米国より遅れること1年、 2014年にされ、現在では6種類の同種同効剤が流通しています。


塚本桂 岐阜薬科大学 実践薬学大講座 グローバルレギュラトリーサイエンス研究室 教授

1989年岐阜薬科大学卒業後、一製薬企業において、一貫して基礎薬理研究および開発研究に従事。

この間、岐阜薬科大学にて薬学博士を取得し、2003年に大分医科大学、2004-6年にベルギー・ルーバンカソリック大学に留学(膵B細胞分子生理学研究に従事)。

2013年12月、25年間の製薬企業勤務に別れを告げ、岐阜薬科大学グローバル・レギュラトリー・サイエンス寄附講座講座特任教授に就任。

2018年4月より現職。企業経験を生かしたレギュラトリーサイエンス研究(医薬品開発の効率化、規制の影響などを多角的に評価)を実施中。家族、友人、サイエンスとイタリアン・ヒストリックカーをこよなく愛する自由人。

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