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「移民」と向き合う 

2019/2/16 紙面から

上林千恵子さん

 外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法が四月一日に施行される。人手不足に悩む企業からは歓迎の声が上がる一方、新制度のあいまいさを指摘する専門家も。少子・高齢化で生産年齢人口は減っていく。外国人労働者、移民とどう向き合えばいいのか。

◆定住化見据え政策を 社会学者・上林千恵子さん

 人口減少が続く中、長期的には外国人労働者の受け入れ拡大が必要だと私は考えています。入り口の多様化を図るため、特定技能という新たな在留資格を作ったのでしょう。しかし、議論は不十分で、中身もはっきり分からない。どうして、あんなに拙速に進めてしまったのか。そこは理解できません。

 特定技能の受け入れは十四分野で最大約三十四万五千人ですが、最も多い業種が介護で六万人。介護は技能実習制度で日本語能力の条件を高く設定したため、希望者が集まらなかった。そのため新しい制度で海外から人を集めようということなのかなと推測します。一方、製造業では、ほとんど技能実習からの移行でいいと言っています。新しい制度を使うかどうか様子見といったところでしょうか。

 安倍晋三首相をはじめ政府は、今回の法改正は「移民政策ではない」と言っています。しかし、それは定義の問題でもあります。国連や経済協力開発機構(OECD)の統計では、一年以上母国を離れて外国にいる人を移住労働者と分類します。つまり移民です。外国人労働者と移民を分けるのは実は非常に難しいことです。

 新設される特定技能1号は滞在期間が五年までとなっていますが、特定技能2号になると、実質的に期限はなくなり、母国から家族を呼ぶこともできます。まさに移民です。移民政策ではないと、本気で思っていたとしても、結果として定住化は進みます。だから、何割かの人は定住するという前提で政策を立てるべきです。

 業種によって外国人受け入れのニーズは違います。機械・金属など景気のいいときだけ人手が必要な業種もあれば、農業のように構造的に人手が足りないところもある。そういったところでは長くいてくれる人を少しずつ増やしていく必要があります。異なるニーズに応じて受け入れ方も考えなければいけません。定住の道がある2号の魅力に引かれて日本に来た外国人が、景気悪化で解雇される。それは残酷なことです。

 外国人受け入れ拡大の方向性は変わらないでしょう。ただ、この制度の中身は、これから作っていくものです。そして二年後に検証することになっています。必要なら法律を変えればいい。これが絶対的なものだと思わなくてもいいのです。

 (聞き手・越智俊至)

 <かみばやし・ちえこ> 1949年、東京都生まれ。東京大大学院博士課程単位取得退学。法政大社会学部教授。専門は産業社会学。著書に『外国人労働者受け入れと日本社会』など。

◆実習制度、根本に矛盾 弁護士・大坂恭子さん

 技能実習生がトラブルに遭う事例は十年以上前から続いています。特に繊維産業が多い。朝から深夜まで働かせる。土日も休日を取らせない。それなのに最低賃金を大幅に下回る給料しか支払わない、訴訟を起こされると倒産して、結局誰も賃金を補償せずに帰国させるという事例がたくさん起きています。

 ある実習生が覚えた日本語は「仕事、上手のときは三年間大丈夫。仕事、間違うときは三年間できない。ミャンマー帰る」でした。三年の実習が終わる前に母国に帰すことが脅し文句になっている。実習生は来日前に保証金や高額な手数料を支払い、借金をしているので、途中帰国になるのは困る。逃げられない状況で過酷な労働をさせるから奴隷制度と批判されます。

 技能実習制度には根本的な矛盾があります。ポイントは「技術習得」のための転職禁止。しかし実態は労働力の確保だから、転職禁止には、地方の人手不足の現場に労働者を固定する機能しかありません。

 「外国人を受け入れるな」なんて言う気はありません。新しく「特定技能」という枠を設けて正面から労働者を受け入れるのはいいが、それなら矛盾を解消できる見込みがない実習制度をまず廃止すべきです。

 労働者として受け入れるのであれば、当然、転職も認めることになります。また、悪質なブローカー排除のため使用者と労働者の間に中間団体が入ることを防ぐ。公的機関が責任を持ってあっせんを行うことです。

 外国人労働者を求めているのであれば、「外国人材」などという言葉を使わず、人の受け入れであることと向き合うべきです。実は、本当に彼らを必要として受け入れている地方自治体では、既にその議論と実践が始まっています。例えば、愛知県は多文化共生推進プランで「外国人県民」という言葉を使って、乳幼児期から老年期まで生涯にわたる支援策を進めることにしています。

 百四十六万人の外国人労働者が生活しているのですから、「移民」政策は求められます。外国人の人権のためだけではありません。地域の持続可能性という観点から考えても必要だからです。日本は既に、しかも政策的に、「移民」を受け入れてきたのです。だとしたら、日本人と共生できる環境を整え、根付いてもらう努力をすべきなのです。

 (聞き手・大森雅弥)

 <おおさか・きょうこ> 1979年、東京都生まれ。2007年、弁護士登録(愛知県弁護士会所属)。外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表。共著書に『外国人技能実習生法的支援マニュアル』。

◆人材難解消の切り札 彌生ヂーゼル工業社長・細田健さん

 東京都江戸川区の「葛西トラックターミナル」に本社を構え、トラックの車検から緊急修理まで対応しています。創業七十三年。近年、当社も含めて自動車整備業界の人手不足は大変深刻です。

 二〇一七年、地元の工業高校から受け入れていた採用が途切れました。このままでは人材確保が困難になる。そこで政府が推進する外国人技能実習制度の活用を決めました。

 代理店契約をしている損害保険会社からも外国人労働者の受け入れについて助言を受けました。その年の三月、ベトナムのハノイに赴き、「(現地での)自動車免許を持っている」「(通訳でなく)私の目をみてしっかり話す」「給与の使い道や将来の目標が明確」などを基準に九人の面接を重ね、最終的に三人を採用しました。

 来日した彼らの技術習得の意欲は高いです。ただ、どうしても住まいでは仲間同士で母国語を使ってしまうなど、日本語の上達は遅れがち。仕事を進める上で、どうしても日本語のコミュニケーションには壁があります。その壁をできるだけ低くするために、ベトナム人実習生の「まとめ役」として日本語が話せるハノイの工業大学の卒業生を獲得する予定です。

 一七年十一月、外国人技能実習制度は改正で在留期間が三年から最長五年に延長され、実習生が整備士の国家資格を取得することも現実的になりました。

 専業の整備担当者の平均年齢は五十歳を超えており、高齢化も心配です。少子化に加えて若者の「自動車離れ」が進み、整備士を志望する学生も減っています。マンパワーに支えられているからこそ新たな人材の育成は欠かせません。自動車整備士の資格を持つ専門学校の卒業生は、大手メーカーやディーラーとの奪い合いです。乗用車の整備希望が多い一方、大型車両の希望者は少ないのが現実です。

 だからこそ、四月から始まる特定技能制度も大きなチャンスです。外国人労働者とともに働くことで、日本人社員のレベルアップにつながることも期待しています。帰国した実習生の就職先となるべく、当社の海外進出も選択肢として考えています。私が目指すのは長く続く企業です。中小が生き残るためには、挑戦して計画を実現していく強い意志こそが大事と思っています。

 (聞き手・中沢幸彦)

 <ほそだ・けん> 1950年、北海道生まれ。大学卒業後、東京産業信用金庫(現さわやか信用金庫)に入庫。2006年、自動車整備の彌生ヂーゼル工業に入社。11年4月から社長。

 <改正入管難民法> 最大のポイントは新たな在留資格「特定技能」を設ける点。一定の技能が必要な業務に就く1号と、熟練技能が必要な業務に就く2号がある。1号は在留期限が通算5年で家族の帯同はできない。2号は期限更新が可能で家族を帯同できる。1993年に始まった技能実習制度は、技能や技術の海外移転が目的だが、現実には出稼ぎ労働者のように扱われることも多い。在留期限は最長5年。

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