元稲沢市議に無期懲役 中国・麻薬事件 

2019/11/8 夕刊

桜木琢磨被告

 【広州=浅井正智】中国国内で覚醒剤を日本に運ぼうとして麻薬密輸罪に問われ、「懲役十五年以上か無期懲役または死刑」を求刑された愛知県の元稲沢市議、桜木琢磨被告(76)に対する判決公判が八日午前、広東省の広州市中級人民法院(地裁)で開かれ、無期懲役の判決が言い渡された。弁護人はただちに上訴する方針を明らかにした。

 この裁判は結審から五年以上も判決が出ず、判決期限の延長を繰り返す異例の事態が続いていた。

 桜木被告は二〇一三年十月三十一日、広州市の白雲国際空港でスーツケースに入った覚醒剤三・三キロを違法に運搬しようとして拘束された。関係者によると、被告は、知人のナイジェリア人男性に「東京にいる妻に商品サンプルを持って行ってくれ」とスーツケースの運搬を依頼された。中に入っていた靴の底部に覚醒剤が入っていたという。

 裁判の最大の争点は、被告本人が覚醒剤が入っていたことを認識していたかという点。被告は、捜査段階から一貫して「覚醒剤が入っていることは知らなかった」と無罪を主張。一方、検察側は「知っていた」として、法定刑と同じ「懲役十五年以上か無期懲役または死刑」を求刑した。法院は「明らかに知っていた」として被告の故意を認定した。

 起訴当時の罪名は「麻薬運搬罪」だったが、桜木被告が最終的に日本に覚醒剤を持ち出そうとしたとして、判決公判当日に罪名が突然「麻薬密輸罪」に変更された。

 中国の法律は、原則として起訴から三カ月以内に判決を出すと定めている。被告については、これまで三カ月ごとに判決期限が延期されてきた。法院は早期の判決を求める弁護人の要望を無視し続け、保釈請求も認めなかった。

 八日朝、判決公判が行われた法院前には、多数の日本のメディアが詰め掛けた。本紙も今月四日に法院側に傍聴の申請をしたが、「家族や関係者を優先させる」との理由で拒否された。

◆「まさか有罪とは」地元の知人落胆

 桜木被告の母校の津島高校で同窓会役員を三十年以上一緒に務めたという愛知県津島市の男性会社役員(75)は「まさか有罪になるとは」と落胆。「無罪を勝ち取るまで自分の人生を懸けてやるのでは」と話した。

◆司法の異質性、時間空費

 <解説> 日本の元市議が中国で、しかも薬物犯罪で起訴されるという特異な事件に、ようやく判決が下された。結審から五年以上もたっており、この間、被告は明確な法的根拠も示されずに勾留され続けてきた。一連の裁判の経過は、中国の司法制度の異質性を見せつけた。

 麻薬密輸罪が成立するには、当事者が運んでいるものを麻薬と認識していることが要件とされる。被告は捜査段階から明確に否認し、無罪を主張。一方、二〇一四年八月に三日連続で開かれた公判で、検察側はこの点を立証したとは言い難い。それが裁判の長期化につながった一面はある。

 十九世紀のアヘン戦争以降、国土を踏みにじられた歴史から、中国では薬物犯罪など「社会的影響を与える犯罪」に広く死刑を言い渡す傾向があり、他の国にはない厳格な態度で臨んでいる。主犯格とされるナイジェリア人が逃亡し、証拠が乏しい中、法院が判断に苦慮した可能性もある。

 しかも事件発生当時は、沖縄県・尖閣諸島の領有権問題で日中関係が最悪だった時期とも重なる。被告が日本の公職者という特殊要因もあった。

 そもそも中国では無罪率はゼロに近い。かりに覚醒剤を運んでいる認識を持っていなくても、日本の元公職者である被告を軽い処罰で済ませた場合、国内から強い反発を招きかねず、それが判決の遅延を招いた可能性は拭えない。

 中国政府は「法治」を口にはするが「司法の独立」は保障されておらず、政治の意向に左右される。弁護人ですら「聞いたことがない」という長期勾留。高齢者である被告の人権に配慮せず、いたずらに時間を空費した不作為の責任は大きい。

 (広州・浅井正智)

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