医療危機、イタリアの警鐘 新型コロナ、死者6800人 

2020/3/26 朝刊

 新型コロナウイルス感染による死者の増加が止まらないイタリア。かつては世界で最も優れた医療態勢を持つ国の一つだったが、財政危機のあおりで病院の集約や効率化を進め、緊急事態に対応できる態勢が損なわれた。医療崩壊の危機にひんするイタリアの現状は、医療費抑制を目的に国が病床削減を模索する日本へも警鐘を鳴らす。

◆疲弊した医師感染

 「医療用手袋はもうない。大規模感染への備えがなかった」。感染者が集中するイタリア北部の病院で感染し、十八日に死去した医師マルチェロ・ナタリさん(57)は、国内で最初の感染者が判明した一週間後、欧州メディアに明かした。

 二月末に初めて感染者が確認されてから、同国内での感染は急速に拡大した。二十五日現在の感染者数は六万九千百七十六人、死者は世界最多の六千八百二十人。院内感染も目立ち、医療従事者の感染は三千人以上に上る。疲弊した医師が感染し、重症化して死亡する事例が後を絶たない。

 病院は飽和状態で、軍などが仮設病院を設置した。政府は退職した医師を動員し、医学生の卒業試験を免除して現場投入。

 しかし人工呼吸器や防護服、マスク・手袋は、ごく初期の段階から不足していた。独立系の医療従事者労組が「安全策が確保されていない」とストライキを呼び掛ける事態になった。

◆統廃合でぼろぼろ

 世界保健機関(WHO)の調査によると、イタリアの医療水準は二〇〇〇年時点で世界第二位だった。しかし、〇七年以降の世界金融危機で一変。イタリア政府のばらまきを問題視した欧州連合(EU)から財政規律を課され、財政赤字と巨額累積債務を減らすため、医療費が標的になった。

 病院は効率化の下で統廃合され、かかりつけ医との連携・役割分担を強化。患者の容体の判断は、必ずしも専門性の高くない医師に委ねられるように。国民千人あたりの病床数は〇〇年の四・二から一七年は三・二に減少。高齢化への対応を重視したことで急性期病院の病床も減り、空きベッドは少ない。

 早期退職と給与削減を進めた結果、医師は好待遇が得られる民間病院の人気診療科や海外に流出し、医師不足も引き起こした。

 伊保健省の助言機関GIMBE財団のカルタベロッタ代表は「歴代の政権は、医療システムをぼろぼろにしてきた」と指摘する。

◆広がった院内感染

 医療関係者の証言や自治体の調査によると、新型コロナウイルスの国内感染が把握されていなかった二月にはすでに相当数の感染者がいたとみられ、体調不良で医療機関にかかった患者から院内感染も広がった。

 感染者が集中するイタリア北部は産業の中心地で、国内でも医療態勢が整っているとされる。国内での発覚直後に対応班を作った病院も多いが、それでも約一カ月で能力を超えた。

 フィコ下院議長は二十日、「財源カットで集中治療室が減らされた。増床が必要だ」と強調。北部ミラノのマジョリーノ元保健責任者は地元メディアで「医療への投資を手厚くしていれば、損失はもっと少なかっただろう」と、医療制度の再建を訴えた。

 (パリ・竹田佳彦)

◆日本の公立病院、削減に「待った」 「有事に余裕必要」

 日本でも医療費抑制のため病床削減を促そうとする動きがある。厚生労働省は昨年九月、がんなど特定の診療実績が少ない全国四百カ所以上の公立・公的病院の実名を「再編統合の議論が特に必要」として公表。少子高齢化を見据えて病床数を適正化する「地域医療構想」に基づくものと説明するが、病院や自治体の激しい反発を招いた。

 公表から半年後の今月十九日に開かれた厚労省の作業部会では、新型コロナウイルス感染症への対応で公立・公的病院が果たす役割が話題になった。全国自治体病院協議会の小熊豊会長は、公立・公的病院が患者受け入れの中心を担っている現状に触れ「こうした有事の際に対応できるよう、常に余裕を持っている必要がある」と主張した。

 公立・公的病院は、結核などの感染症対策や不採算部門とされる救急医療で中心的役割を果たしてきた。

 城西大の伊関友伸教授(行政学)は「医療費削減を第一目的に、特定の診療実績だけを見て再編議論を進める手法の問題点が明らかになった」と指摘。地域医療構想は感染症対策の視点が欠けているとして「流行終息後、今回の課題や教訓を基に各地域ごとに議論するべきだ」と話す。

 (安藤孝憲)

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